母の介護を10年続ける綾戸智絵
要介護認定者(要支援含む)が600万人に迫りつつあるなか、家庭内の担い手も仕事と介護の両立に四苦八苦している。そんななか、少しでも苦労を減らすアイデアグッズが多数開発されているが、著名人に聞く「介護の戦友」は──。ジャズシンガー・綾戸智絵が重宝しているのは、「認知症の母のおしゃれ心を満たした手作りのチェーン」だという。
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90歳になる母の介護をかれこれ10年していますが、何が母を満足させるのか、反応を見ながら手探りの日々です。
数年来、重宝しているのがネックレスを改良したチェーン。外食の時に、ナプキンを胸元で留めるグッズです。チェーンを後ろから首にかけて、両端のクリップで布をパチンと挟む。そうすれば、みなさんと同じようにお店のナプキンを使えるでしょ。
市販の介護用エプロンも買いましたが、あの大きいビニールを母が嫌がるんです。「それを着けたい」と、お店のナプキンを指す。母の言葉に「そりゃあ、そうだよね」って。人生を謳歌して、歳を重ねて美的感覚も身につけた婦人なのに、赤ちゃんみたいなものを着けられたら尊厳が傷つきますよね。
母は、私に幼い頃から瀬戸物を使わせていたんです。私はアニメキャラクター入りのプラスチックのコップが欲しかったのに、断固として使わせなかった。ミルクを飲むのも九谷焼とか有田焼です。子供心に「なんで?」と母に聞いたら、「(子供用のプラスチック製では)“割れる”ということを教えられないから」って。面白い人だな、と思いました。だから介護用エプロンを嫌がる姿にすごく合点がいった。子供みたいに食事のトレーニングをするようなグッズは母には使わせられないな、って。
認知症の症状が進んで得意の編み物もしなくなり、あれもできない、これもできないと自立した生活を失っていく中で、今の幸せを聞いたら母は「おしゃれ!」と答えたんですよ。その一言も大きかった。