現役講師としては最高齢となる日本料理研究家の鈴木登紀子さん(90才)。昨年7月には、『「ばぁばの料理」最終講義』を出版。出演45年目に突入した『きょうの料理』(NHKEテレ)では、今年4月から「登紀子ばぁばの元気印」と題して、後藤繁榮アナウンサーと絶妙の掛け合いを見せるレギュラー出演が始まった。
料理教室もキャンセル待ちの大人気、「かわいい」「お姑さんになってほしい」と、20~30代女性にファン急増中の“90才のアイドル”の1日を追った。
登紀子ばぁばが料理研究家としてデビューしたのは46才の時。サラリーマンの夫と3人の子供をもつ、ごく普通の専業主婦だった登紀子ばぁばが、自宅に近所の主婦を招いての料理教室が評判となり、『きょうの料理』への出演が決まった。
まだ子供の4人に1人が栄養失調の時代、母親が料理を楽しむことで家族全員が元気になれば…と、ばぁばを抜擢した当時のチーフプロデューサー・若山慧子さんは、料理のおいしさは言うまでもないが、その“手(料理の所作、盛りつけ)”の美しさに惹かれたと言う。
「どのお料理もできあがりがきれい。最初の収録から一発OKでした。また、佇まいやおしゃべりがとても上品でチャーミング。私たちは“はつのへ(八戸のこと)の皇后陛下”と呼んでいたんですよ(笑い)」
本番でNGをほとんど出さないのは、90才になった今も変わらない。
『きょうの料理』では、講師が使用食材や調味料を用意する。ばぁばは自宅での下ごしらえに時間をかけ、スタジオ入りしてからもリハーサルでスタッフと入念な打ち合わせや段取りに労を惜しまない。若いスタッフとともに立ちっぱなしで、しいたけの焼き加減から天盛りに使う木の芽の色・形まで目と気を配る。
手にした瞬間、「菜箸が違う! これはダメなの、私」と、すぐさま料理準備室へ小走りに向かう後ろ姿は、とても90才とは思えなかった。
あるいは包丁。汚れた包丁はまずティッシュで下拭きしてから布巾で拭くのがばぁば流だ。とはいえ、短い収録時間である。口で説明すればいいか…となってもおかしくないが、ばぁばは妥協しない。
「“ティッシュ”は固有名詞じゃないから、言っても大丈夫でしょ?」と後藤アナに確かめながら、ティッシュの置き場所をしっかり確保した。
「お料理の味は下ごしらえと段取りで決まるのよ」が口ぐせ。料理教室であろうが、カメラが回っていようが、やることは同じ。準備が整っていれば、本番で慌てる必要はないじゃない?がセオリーだ。
「近年、アイディア料理やスピード料理が主流ですが、ちゃんとした料理を見たい、作り方を知りたいという20~30代の視聴者のかたが増えています」とは、2006年から同番組のプロデューサーを務める大野敏明さん。
「昨年放映した登紀子ばぁばのおせち料理は、『きょうの料理』ダントツの年間視聴率トップでした。ぜひ、100才の記念すべきおせち料理で、ご自身の記録を塗り替えていただきたいですね」
ばぁばのチャレンジはまだまだ続く。
※女性セブン2015年4月30日号