3月まで『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)の司会を務めていた愛川欽也さんが肺がんで4月15日に亡くなったニュースは、芸能界を中心に多くの衝撃を与えた。日本人の死因は1980年代以降ずっと「がん」がトップであり、非常に身近な病気だが、がん罹患を会社に報告したら解雇通知された場合、どう対処すればよいか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
初期の大腸がんが見つかりました。幸いなことに手術の必要はなく通院での治療となりましたが、会社に報告すると数日後に解雇の通告を受けました。私の仕事はデスクワークが主で、がんになっても会社に迷惑をかけることはないのです。それなのに解雇は納得できません。どう対処すればよいですか。
【回答】
がん罹患だけを理由にした解雇は無効です。労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇を無効としています。病気になっても、業務に支障がないのに解雇できる道理がないからです。
しかし、通院日程の「やりくり」で仕事の調整が必要になれば、同僚や職場の業務に支障が生じることもあります。会社もその点を心配しているのでしょう。以下は、その前提で検討します。
業務による傷病の治療期間中は解雇できませんが、私的な病気で長期間仕事ができない場合、一定期間の休職を命じるのが通例です。就業規則や労働協約で確認してください。病気休職に関する規定があれば、休職扱いをしないでいきなり解雇することはできません。
休職期間中の待遇は会社によってさまざまですが、社員の身分などの保障は残ります。問題は休職期間満了後も病気が治らなかった場合です。休職理由が解消しないと解雇や休職期間満了で自然退職になるとの規定があれば、休職期間満了で労働契約終了と解される可能性があります。しかしながら、病気が就業可能な程度まで治っていれば、退職させたり、解雇はできません。
就業規則に病気休職に関する規定がない場合、定められた解雇事由に該当するかが次の問題です。病気だけで解雇事由にはされていないはず。規定されていても、がんだけで解雇するのは冒頭のとおり無効です。しかし、仮に雇用契約に従った労務ができない状態であれば、解雇はやむを得ません。
ご質問の場合、解雇は不当だと思います。会社から解雇理由の証明書の交付を受けて、都道府県の労働局長に個別労働紛争として相談されるのがよいでしょう。各地の総合労働相談コーナーが窓口になります。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年5月1日号