【著者に訊け】よしもとばななさん/『サーカスナイト』/幻冬舎/1620円
亡くなった人の存在を通して、人がもともと持っている力に気づかせてくれる小説だ。
「久しぶりにバリを旅して、その後もたびたび行くようになったことの影響が大きいですね。バリの人って、亡くなった人やご先祖さまを本当に身近に感じて暮らしてる。死んだからいなくなる、というものじゃないんですね。昔の日本もそうだったのかもしれませんけど」
そういう場所で育ち、日本に帰ってきた女性なら、どんな風に感じるだろう? そこから、小説を考えていったという、よしもとばななさん。
主人公のさやかは、友人だった悟に頼まれ、病気で死を宣告された彼の子供を産む。悟が亡くなったあとも、都内の二世帯住宅で彼の両親と暮らし、娘を育てている。
さやかの左手の親指は曲がったままで動かない。過去の暴力事件でけがをし、そのことで恋人と別れることになったのだった。
「さやかは日本人なんですけど、バリで育ったために、今の東京ではどこかズレて見えるんです。そのズレに、読む人が何かを感じとってもらえたらいいですね」
「ずばずば書くのではなく、うすぼんやり書こうと思った」と、よしもとさん。地方紙での連載ということもあり、年齢層の幅広い読者がいやな気分で一日を始めたり、終えたりすることのないよう、文章にも細心の注意を払った。
飛行機事故で早くに両親を亡くし、一人で生きてきたさやかは、新しい家族を得て、自分の弱さをゆっくり受け入れていけるようになる。彼女の周りも次第に変わっていく。
閉じられていたさやかの世界が再び開かれるきっかけになるのが、彼女が暮らす家の敷地に埋められていた小さな骨のかけらだ。『花のベッドでひるねして』に続く、よしもとさんの「埋められたものを掘り起こす」シリーズの、この本は2作目にあたる。
「埋められていたものが表に出てくることで、他のいろんなものが出てきてしまう、というのが面白くて、そういう状況を書いてみたいんです」
それは、人の心の動きに似ている。ちなみによしもとさんの周りでは、庭を掘ったら何かが出てきた、という人はけっこういるそうで、自身も借家の敷地に埋めたままの亀のことが今も気にかかっている。
「最高に怖かったのはスペインの人の話で、庭を掘っていたらお面みたいなのが出てきたと言うんです。『そんなものが家の庭から出てくるんですか?』って聞いたら、『いや、うち遺跡だったから』って。あげるよって言われてもらってきましたけど、どうしたらいいのかな、これ」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2015年4月30日号