知られざる専門誌の世界へようこそ──。今回はカラオケ愛好家向けの専門誌を紹介します。
『月刊カラオケファン』
創刊:1982年
月刊誌:毎月21日発売
部数:12万部
読者層:カラオケ愛好家、カラオケ教室の講師、芸能業界関係者
定価:905円
購入方法:全国の書店、または株式会社ミューズまで直接注文
ひとりでカラオケボックスに行き、歌いたい歌を歌いたいように歌う“ひとりカラオケ”がブームだそう。でも「歌いたい新曲がない」と嘆くのは40~60代の中年層だ。しかしその親世代は「まったく違う音楽環境の中にいる」と語るのは、編集長の毛見剛さん(48才)。
「当誌の読者の平均年齢は70才。みなさん、好きな歌手の新曲を配信日までに覚えて仲間に披露すべく、練習に励んでいますよ」
そのためには、配信前にラジオなどから流れる新曲を録音。繰り返し歌ってすっかり自分のモノにしてから、地元のカラオケ同好会やカラオケ教室で歌うのだそう。もちろん、読者の最大の関心事は「今よりうまく歌えるようになりたい」こと。同誌に毎号付く『新曲歌い方講座』のCDも重要な教材だが、圧倒的な人気企画は歌のレッスン特集だ。
『特集 海沼実流 カラオケ大会必勝ガイド』(3月号)では、国内最大級のカラオケ団体・全日本音楽教室指導者連合会を主宰する作曲家の海沼実さんが、審査員の立場から「予選通過」のコツを教えてくれる。
たとえば、カラオケ大会はテープなどの録音物の予選がつきものだが、〈教室やお店などで、そのライブ歌唱を録音する場合には、普段よりエコーを少なめ、カラオケの音量は控えめにして、歌声のバランスをやや強めに設定すること〉などは、まだ初めの一歩。
〈高い評価を得やすい曲のつくり方と欠点が引き立って低評価になりやすい曲のつくりも知っておくこと〉と説く。
高い評価を得やすいのは、〈歌い出しの音程や音階が平易に書かれた語りで始まり、サビ前から徐々に音域が高くなって、かつサビ場面で同じ音を伸ばすロングトーンが連続せず、エンディングは多少の起伏ある音階で終えるような構成〉だそう。
審査員は歌い出しが難しい曲はそこで粗さがしをしたくなり、サビに向かって盛り上がらないと印象が薄くなり、サビで単調なロングトーンを聴けば減点対象にする。
さらに、〈アマチュアには好まれるのに、審査員には最も嫌われる可能性が高い歌唱に「オリジナル歌手の物マネ」〉がある、などと素人が陥りやすい歌い癖まで、かゆいところに手が届く記述が続く。
では、どの曲が審査員を唸らせられるか。毛見さんに聞くと、
「審査員によって、評価のポイントが違いますから、曲名を言うのはすごく難しい」とした上で、「ここいちばんの勝負曲なら、やはりメリハリの効いた、聴かせどころのある歌のほうが印象に残ります。近年で言えば、福田こうへいさんの『南部蝉しぐれ』や『峠越え』。少しさかのぼって成世昌平さんの『はぐれコキリコ』などですね。民謡を取り入れた作品は、難しい分、聴きごたえもあります」。
そして、とどのつまりは、「作品の傾向や新曲にこだわるより、自信を持って歌える歌いなれた曲を選んだほうが良い結果を得られますね」と毛見さん。
創刊当時、カラオケ配信機器メーカーやディーラーの専門誌の要素が強かった同誌には、今、カラオケで歌われている曲の最新情報が届く。
そこから「局地的なイベントなどを差し引いて」(毛見さん)、正確な数字をもとに『今月のカラオケリクエストHOT50』を紹介している。
ちなみに最新号の5月号では、〈1位:『雲母坂~きららざか~』(川野夏美)/2位:『二月堂』(葵かを里)/3位:『ガラスの部屋』(ハン・ジナ)〉だ。
「今回は『矢車草~やぐるまそう~』で10位でしたが、五木ひろしさんはいつでも上位。伍代夏子さん、大月みやこさん、福田こうへいさんも根強いですね」と最近の動向を解説する毛見さん。
「十八番は?」と聞くと、「私はめったに歌いません」と、低めの美声を響かせた。
取材・文/野原広子
※女性セブン2015年4月30日号