【書評】『うつを治したければ医者を疑え!』伊藤隼也と特別取材班著/小学館/本体1100円+税
伊藤隼也(いとう・しゅんや):出版社写真部勤務を経て1982年独立。医療ジャーナリスト、写真家、著述家。著書に『認知症予防のための簡単レッスン20』(文春新書)、『ボケない「長寿脳」の作り方 ドキドキ、ワクワクが鍵だった!』(宝島社新書)など。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
本書は日本の精神医療の問題点を追及した作品だが、読み進むうちに背中が寒くなってくる。それまで年間2万人台前半で推移していた自殺者数は1998年から3万人以上に急増した(2012年以降は3万人割れ)。著者はそれとほぼ同じタイミングで、抗うつ剤の売上額とうつ病患者数が増加したことに注目する。
本書によれば、以前に比べてうつ病と診断される症状の範囲が広がり、単なる気分の落ち込みまでがうつ病と診断され、安易に抗うつ剤が処方されるケースが増えた。すると、薬の副作用によって症状が悪化し、それに対してさらに〈多剤投与〉が行なわれ、ますます症状が悪化する……。
本来、病気を治し、症状を改善するためにあるはずの医療が、逆に病気を作り、症状を悪化させている。だとすれば、それは医療が原因の病気、つまり〈医原病〉ではないか。実際、そうしたケースで投薬量を減らしたり、そもそも薬の処方をやめたりすると、多くの場合で症状が改善するという。
〈医原病〉がさらに深刻なのは、そこに製薬会社の思惑が絡んでいるからだ。本書は情報公開制度を利用し、診療のガイドライン作りなどに関わる有力な医学研究者や医師に対し、「研究開発費等」「学術研究助成費」「原稿執筆料等」「情報提供関連費」などさまざまな名目で、製薬会社から資金提供が行なわれていることを明らかにする。そこに不適切な関係はないのか?
短時間の診察で薬を処方すれば医療機関が儲かるような仕組みになっている診療報酬制度も問題だという。「最近、うつっぽくて」。そんな言葉を口にしたことのある人は本書を読むといい。
※SAPIO2015年5月号