今年はベトナム戦争終結から40年にあたる。そのタイミングで韓国軍による虐殺の生存者が生き証人として初めて訪韓した。
訪韓したのはグエン・タン・ラン氏(63)とグエン・ティ・タン氏(54)。2人のベトナム人は4月4日から1週間にわたって韓国各地の懇談会や講演会に参加する予定だった。しかし、ベトナム戦争の退役軍人団体である「枯葉剤戦友会(大韓民国枯葉剤後遺症戦友会)」が行く先々で抗議活動を展開した。
実はベトナム戦争被害者の招聘を主導したのは、慰安婦問題で反日の急先鋒を担う挺身隊問題対策協議会(挺対協)だった。
2人のベトナム人被害者は元慰安婦と面会し、挺対協が毎週水曜にソウルの日本大使館前で行なっているデモにも参加した。
挺対協では、韓国政府がベトナム人に謝罪し補償をすれば、日本政府に元慰安婦への謝罪や補償を要求しやすくなるという考えもある。
改めて書くまでもないが、日本政府は元慰安婦に何度も謝罪しているし、1965年の日韓請求権協定で計5億ドルの無償・有償借款を供与している。その後も民間資金を活用した補償を続けてきたが、それを拒否したのは挺対協など韓国側だ。一部のネトウヨはいざ知らず、“歴史修正”に走る朴槿恵・大統領と日本の対応は全く違うといっていい。
一方の枯葉剤戦友会は、「反日」では路線を共にする挺対協と、ベトナム虐殺問題では完全に対立する。
朴氏はこれまで左右両陣営から支持を得やすい「反日」を最大限に利用してきたが、ベトナム虐殺問題で謝罪と補償を要求されるという巨大ブーメランが自らを襲うことになった。
朴氏を追い込むブーメランはもう一つある。本誌前号では、韓国の“もう一つのお家芸”ともいえる前大統領の追及が始まったことを報じた(関連記事参照)。検察が李明博・前大統領の資源外交での不正追及に着手し、「親李明博」とされた慶南企業の成完鍾・会長が横領疑惑で家宅捜索を受けた。
ところが、4月9日に成会長が自殺。服のポケットから見つかったメモには朴氏側近の名前と金額が記されていたのだ。元朝日新聞ソウル特派員・ジャーナリストで、成会長の著書『夜明けのあかり』(三一書房刊)の翻訳者である前川惠司氏がいう。
「成会長はキムチの配送業から建設業に進出し、これまでも何度か贈賄疑惑が取り沙汰されてきた人物ですが、検挙はされていない。ただ、政界に幅広い人脈を持っていたのは確かです。
朴政権は腐敗追及をアピールしようとしたのでしょうが、しっぺ返しを食いました。韓国メディアは『成会長の秘密資金データを当局が確保した』などと報じています。浅はかな前任者追及が、自らの命取りになりかねない状況です」
※週刊ポスト2015年5月1日号