ライフ

【書評】34歳差の師弟が独特のリズムで語り合う「人生とは」

【書評】『地平線の相談』細野晴臣、星野源著/文藝春秋/1400円+税

【評者】香山リカ(精神科医)

 ミュージシャンの対談集。その話し手の名前を見て「ふーん細野晴臣ね」と思うか「おっ星野源」と思うかで世代がわかる。細野さん1947年生まれ、星野源さん81年生まれ。60年生まれの私はかろうじて両者に反応できた。いずれも飛び抜けた才能とセンス、それを裏打ちする技術や知識に恵まれたアーティストだ。

 ただ、その音楽はよく知らない、という人もだまされた、と思って本書を開いてみてほしい。細野さんを崇拝する星野さんが人生相談めいた質問をするという師弟問答のスタイルで進むこの対談、読んでいるだけで気持ちがたいへんにゆるむ。ガンガン進むでもなく止まるでもない、そのリズムが何とも心地よいのだ。

 内容に関しては、けっこう詰まっているときとスカスカのときとがある(笑)。ただ、それがランダムに並んでいるので油断できない。「甘いものを食べるとしょっぱいもの食べたくなる」「貧乏ゆすりは、世界一のストレス解消法」なんて話に苦笑していると、細野さんが「音楽家っていうのはみんな孤独だよ」「バンドなら解散できるけど、個人は解散できないから」という話を始めたりして、その言葉の意味を「うーん」と考えたくなるのだ。

 星野源さんのほうも細野さんに引きずられるようにして、「人生はレスキューしたり、レスキューされたり」「地獄は死んでから行くところではないですよね」などと名言を連発する。

 それにしても、この一冊ができ上がるまでにかかった年数というのがすごい。07年から13年までの約5年半。途中、星野源さんが二度の入院を経験したり、東日本大震災が起きたり。よく読むとそれも微妙に反映されているのだが、ふたりの関係性や人生への態度は本質的には揺らぐことはない。

 個人的に細野ファンの私には、YMOの末期は「忙しすぎてメンバー同士が直接会えない」といった状態だった、などのこぼれ話も興味津々。世知辛い現実をひととき離れてのゆるくて粋な対話、みなさんもどうぞお楽しみあれ。

※週刊ポスト2015年5月1日号

関連記事

トピックス

石川県の被災地で「沈金」をご体験された佳子さま(2025年4月、石川県・輪島市。撮影/JMPA)
《インナーの胸元にはフリルで”甘さ”も》佳子さま、色味を抑えたシックなパンツスーツで石川県の被災地で「沈金」をご体験 
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン
隣の新入生とお話しされる場面も(時事通信フォト)
《悠仁さま入学の直前》筑波大学長が日本とブラジルの友好増進を図る宮中晩餐会に招待されていた 「秋篠宮夫妻との会話はあったのか?」の問いに大学側が否定した事情
週刊ポスト
新調した桜色のスーツをお召しになる雅子さま(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
雅子さま、万博開会式に桜色のスーツでご出席 硫黄島日帰り訪問直後の超過密日程でもにこやかな表情、お召し物はこの日に合わせて新調 
女性セブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
週刊ポスト