【書評】『地平線の相談』細野晴臣、星野源著/文藝春秋/1400円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
ミュージシャンの対談集。その話し手の名前を見て「ふーん細野晴臣ね」と思うか「おっ星野源」と思うかで世代がわかる。細野さん1947年生まれ、星野源さん81年生まれ。60年生まれの私はかろうじて両者に反応できた。いずれも飛び抜けた才能とセンス、それを裏打ちする技術や知識に恵まれたアーティストだ。
ただ、その音楽はよく知らない、という人もだまされた、と思って本書を開いてみてほしい。細野さんを崇拝する星野さんが人生相談めいた質問をするという師弟問答のスタイルで進むこの対談、読んでいるだけで気持ちがたいへんにゆるむ。ガンガン進むでもなく止まるでもない、そのリズムが何とも心地よいのだ。
内容に関しては、けっこう詰まっているときとスカスカのときとがある(笑)。ただ、それがランダムに並んでいるので油断できない。「甘いものを食べるとしょっぱいもの食べたくなる」「貧乏ゆすりは、世界一のストレス解消法」なんて話に苦笑していると、細野さんが「音楽家っていうのはみんな孤独だよ」「バンドなら解散できるけど、個人は解散できないから」という話を始めたりして、その言葉の意味を「うーん」と考えたくなるのだ。
星野源さんのほうも細野さんに引きずられるようにして、「人生はレスキューしたり、レスキューされたり」「地獄は死んでから行くところではないですよね」などと名言を連発する。
それにしても、この一冊ができ上がるまでにかかった年数というのがすごい。07年から13年までの約5年半。途中、星野源さんが二度の入院を経験したり、東日本大震災が起きたり。よく読むとそれも微妙に反映されているのだが、ふたりの関係性や人生への態度は本質的には揺らぐことはない。
個人的に細野ファンの私には、YMOの末期は「忙しすぎてメンバー同士が直接会えない」といった状態だった、などのこぼれ話も興味津々。世知辛い現実をひととき離れてのゆるくて粋な対話、みなさんもどうぞお楽しみあれ。
※週刊ポスト2015年5月1日号