3月15日に行なわれた全日本競歩能美大会で1時間16分36秒の世界新記録を樹立した鈴木雄介(27/富士通)。圧倒的な速さを生み出すのは、「世界一美しい」と評される彼のフォームだ。競歩は審判員の厳しいチェックのもとに試合が進められる。「常にどちらかの足が地面に接していること」「接地した脚は地面と垂直になるまで膝を伸ばすこと」が義務づけられ、警告3回で失格となる。
トップ選手の参加する大会でも約1割が失格になり、速さだけでは競歩という種目を制すことはできない。競歩を始めて13年。「一度も失格のない」美しいフォームはどのように身についたのか。鈴木は話す。
「僕は身体も硬いほうだし、身体能力は高いほうではないと思います。けれどイメージ通りに身体を動かす器用さには自信があります。憧れの競歩の選手はアトランタ五輪金メダルのジェファーソン・ペレス選手。力強さとしなやかさが共存している彼のフォームをイメージしながら練習しています」
取材当日、鈴木は朝9時半に練習を始め、持久力を高めるための3000メートルインターバルを6本こなした。1キロ4分5秒から3分50秒へとペースを上げていき、今村文男コーチの撮影する動画を繰り返し確認した。
「自分がすごく努力しているという意識は一切ないですね。常に気持ちの上では余裕があるので、どんなトレーニングをしても疲労感は残りません」
【プロフィール】すずき・ゆうすけ/1988年1月2日生まれ。石川県出身。辰口中2年時に本格的に競歩を始め、小松高3年時にインターハイの5000メートル競歩で優勝。順天堂大学を経て、2010年に富士通入社。20キロ競歩では2011年テグ世界陸上で8位入賞、2012年ロンドン五輪36位。170センチ、57キロ。
■取材・文/酒井政人 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2015年5月1日号