かつての「役得」は日本とは比べものにならないほどだったが、現在の状況はその反動なのか。中国の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏がレポートする。
* * *
意外な印象を受けるが話だが、中国では役人の自殺が非常に多いという。
反腐敗キャンペーンを徹底して行う習近平政権になって以降、官僚の特権と役得は急速に萎んでいるとされるが、それでも2000年代になってからわが世の春を謳歌してきた印象の強い中国の役人に自殺が増えている説明は簡単には見つからない。
本当なのだろうか。
この疑問に答えているのが2015年3月上旬に、『南方週末』が掲載した記事だ。記事によれば中国では、2003年8月から2014年4月までの約10年間に、112人の官僚が自殺しているというのだ。
出身官庁は公安、検察、法務、国土、規律検査委員会、陳情など広い部門にまたがっていて、職種や仕事による重圧に自殺の理由を求められるわけでもないという。
しかもポストもばらばらで大臣級が8人、局長級が22人、課長級が30人、残りが課長以下とこちらも統一した特徴は見出すことはできない。年齢に至っては、30代が11人、40代が44人、50代は32人、60歳以上が5人とこちらもバラバラだ。
いったいどういうことか。
記事によれば自殺発覚後に遺族がその理由を説明できたのは37%でしかなかったという。明らかになっている動機としては、病気、借金、夫婦喧嘩などが挙げられたというが、全体の63%は家族も理由が解らないままなのである。
こんななか多くの人が思い浮かべるのが昨今の厳しい官僚狩りによる犠牲者ではないかということだ。事実、2014年4月上旬にはわずか1週間の間に3人が自殺するということもあって、イメージとも重なるというのだ。
今年3月18日には『人民ネット』が、公表されたばかりの中国社会科学院の『法治青書(2015)』の数字をもとに、2014年は毎日500人の官僚が規律検査の対象になっていたと報告したばかりでもある。
いよいよそんなところまで中国の官僚は追い詰められているのかと思われたが、実際のところ『南方週末』によれば、取り調べのプレッシャーを苦にした自殺は全体のわずか23%、人数にして26人でしかないという。
図太いイメージの中国の官僚だが、実は案外ナイーブな人間が多いのかもしれない。