朝日新聞は昨夏、一連の慰安婦報道について、誤報を認め訂正・謝罪記事を掲載したが、1990年代以降、「慰安婦=性奴隷」として定着した国際世論の前では、ほとんど意味が無いという。しかし、一連の誤報により、屈辱を受けたとし、米国在住の日本人が同社を集団で訴えた。在米ジャーナリストの高濱賛氏がレポートする。
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「日本のクオリティ・ペーパーの朝日が慰安婦強制連行と書いているんだぞ。君はそれを否定するのか」
朝日新聞を提訴した原告の一人の馬場信浩氏(73)は、米国の地方市議からそう怒鳴られた。
馬場氏は、テレビドラマ『スクール・ウォーズ』の原作などを手がけた著名な作家で、1989年に米国に移住。現在、カリフォルニア州で暮らしている。この数年、馬場氏は米国内で韓国系住民が中心となって各地で進めてきた「慰安婦像・碑」設置をめぐる同州各地の市議会公聴会で反対意見を何度も述べてきた。
「2013年7月に行われたブエナパーク市議会の公聴会で証言した時、閉会後、韓国系議員から怒鳴られました。その前にも、2013年3月のグレンデール市議会の公聴会で議長役を務めた議員から『(慰安婦強制連行は)日本政府も認めている。今日やってきた日本人はみんな右翼か。南京大虐殺を知っているか。バターン死の行進を知っているか。騒げば外へつまみ出すぞ』と木槌を叩かれ、公衆の面前で面罵された。
昨年夏の朝日の訂正記事以降も、各市議会議員や地元メディアが慰安婦についての考えを改めるようなことはなく、訂正記事の英訳を持って説得しようとしても無視される始末です」(馬場氏)
確かに朝日新聞は2014年8月、1980年代から続いた同紙の慰安婦報道について、“慰安婦狩り”をしたとする吉田清治証言を虚偽と認め記事を訂正・取り消すなどした。が、それが米国内の慰安婦問題論争に影響を与えたかと言えば、答えはノーだと馬場氏は言う。
今や慰安婦問題は米国では朝日の誤報から離れて一人歩きしている。主に日本国内の読者向けの朝日新聞“32年目の訂正記事”はあまりに遅く、不十分だったのだ。
朝日新聞社広報部に昨夏の訂正記事以降、その事実を海外向けに発信したかどうかを尋ねると、「本紙とほぼ同時に、(同社)外国語メディアで報じています」(広報部)と回答があった。
「自社の外国語メディアで報じるだけでは限界がある。『糠にクギ』とは言いたくないが、そのために屈辱をもろに受けているのはわれわれのような米国に住んでいる日本人なのです」(馬場氏)
※SAPIO2015年5月号