3月より就活が本格始動し、内定ゲットに向けて右往左往する学生の増えるこの季節。就活スタートと同時に発売された『内定童貞』(星海社新書)で、就活の欺瞞と問題を暴き物議を醸した中川淳一郎と『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』で、慶應生、TOEIC950点ながらも就活に失敗した女子の奮闘&再生記を描き話題を呼んだ小野美由紀が、本当の意味で「失敗しない」就活について徹底討論!
中川:君ィ! 聞けば星海社『内定童貞』担当編集の今井さんに「中川さんとの全裸対談をお願いします」って持ちかけたそうじゃないか!
小野:はい、そうです。
中川:だめだよ簡単に脱いじゃ! 一度脱いだら、一生google検索に残るんだからね! 男は冗談で済むけど、女性の場合、結局「全裸になる危ない人」とか「必死だなwww」みたいな話になっちゃうんだよ。しかも、検索予測ワードで「小野美由紀 全裸」「小野美由紀 巨乳」「小野美由紀 ハミ毛」「小野美由紀 肌」みたいな感じにしかならず、AV女優ならまだしもモノカキでその状況はあまりよろしくない。
小野:いや、過去2回の今井さんとの全裸対談を見て、中川さんに対談を申し込むには全裸にならないといけないのかと思って…。
中川:オレと今井さんは全裸でもいいんだよ! でも、裸はやめたほうがいいよ!こっちは一番うれしいけどさ!
小野:そうですね……。すみません。私は「面白ければなんでもいいや」って感じだったんですけど…。
中川:若い時に脱いでも面白くないけど、熟女になってから脱いで「ふむ…これは48歳にしてはいい身体だな」ってなってたほうが、オイシイだろ!
小野:そうですね。やめます。なので今日は着衣でお願いします。
■童貞はセックスしてねーから悩むんだ!就活もそれと同じだ、バカ。
今井:中川さんの最新刊「内定童貞」(星海社)でも、小野さんの初エッセイ集「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)でも、学生時代、相当なコンプレックスのあった人間が、それをはねのけてがむしゃらに進んでゆく過程が描かれています。
小野:中川さんは博報堂に内定当時、強烈なコンプレックスがあったって書いていましたけど……。
中川:そうなんですよ。これまで一橋大学っていうすげー郊外の大学に引きこもっていたのに、いざ内定者が集まったら、同期は私学から来たみなチャラいやつばっかり。二次会で西麻布いくぞ! なんて話になったけど、それに対して、自分は「西麻布?!どこ? とんねるずの歌でしか知らねぇ?!」みたいな感じで。Mっていう一橋の同級生で、学年で一番チャライやつも一緒だったんですけど、そいつが内定者の飲み会でスピーチして「自分は一ツ橋でも一番のスケコマシでして、でも、就職したらいよいよ年貢の収め時で~す」なんつって、「スケコマシ」って言葉自体がそもそもチャラくねーだろバカ!みたいな。
小野:牧歌的な、府中あたりの堆肥の臭いが漂いますね。
中川:で、そのあとに早稲田のスキー部の主将みたいなのが出て来て、「自分はスキーでインターハイに出たんすけど、その肩書きだけで100人はオンナを喰わせていただきましたッ!」みたいなこと言ってて、それ見たMが「負けた」って顔してんだよ。もう情けないですよ。「こんなノリの良い連中しかいない業界に入ったらオレは通用しない。もうちょっとマジメそうな会社、三菱地所とか受け直した方がいいんじゃないかと、本気で思っていた。
小野:周りの学生がみなまぶしく見える感じはよく分かります。私は慶應大学のフランス文学科卒なんですけど、その中にもゼミのカーストがあって。人気のAゼミは、パリとかエッフェル塔とか好きです!みたいなキラキラした帰国子女のお嬢様が20人くらい集まっていて、内定先も電通とかANAとか、華々しいところばかりなんですよ。一方でBゼミは、本としか会話できません!みたいなガチの文学オタクしか集まっていなくて。まあ私は当然Bゼミだったんですけど、うちのゼミ、5人いて就職率ゼロ%なんです。「就活する」って言っただけで教授に泣いて喜ばれた。慶應で他にそんなゼミないですよ。華やかなAゼミの子たちが羨ましくて……。大学名だけ良くても、元から持っているものの差がある限り、全員が同じ路線を歩めるわけではない。
中川:今思えば、内定式の日だけに、同期が虚勢張ってただけなんだけどね。「イケてる都会の広告代理店だから、俺もイケてる風に振る舞わなくちゃ!」みたいに思ってたんだろうね。
小野:いかに自分がすごく見えるかを競ってた?
中川:そういえば、小野さんの「傷口から人生。」にも、そういう話が出て来ますね。バンダイの面接で、みなが見栄はって自己アピールする中、グループ面接で一人だけ、桜の話をしたオタクっぽい男が、面接官の評価を全部持ってった!っていう。あれは、いい話だよね。
小野:他の就活生が「いかに自分がすごいか」を延々と語る中で、自分のペースで、自分についてではないことを語った男の子が結局注目をかっさらっていった。面接は目立つためのゲームではなかったってことです。私はそれが分かっていなかった。中川さんは、就活の時に自分が一番語れるプロレスの話で面接官の関心を引いたんですよね。学生の時から、驕る事なく、そうやって達観できていたんですか?
中川:オレはもともと、どんなことをやっても、所詮オレじゃん!って思っちゃうですよ。「人間所詮クソ袋」って思ってる。これは、『北斗の拳』の担当編集者で、週刊少年ジャンプが653万部売れていた時の編集長である堀江信彦さんの言葉です。どんなにキレイでも、頭が良くても、所詮うんこする機械だって思うんだよね。
小野:本の中にも書いてますね。
中川:面接官見て、「こいつら、クソするよな」って。大企業の偉いさんだと思うからびびるけど、所詮クソして寝てるやつらだと思えば、対等に話せる。
小野:中川さんはあんまり悩まない?
中川:エロしちゃうと忘れちゃうからね!!!悩みなんか、オナニーしたら忘れるんだからさあ。
小野:そうそう。私、最近思うんですけど、悩みなんて、所詮セックスしたらだいたい解決するじゃないですか。
今井:(笑)
小野:就活に限らず、悩まなくていいようなしょうもないことで悩む人って、精神的に処女・童貞だから悩むんだと思っていて。幻想を持ちがちで、それが苦しみの根源なんだけど、それが分からない。
その意味で「内定童貞」っていうタイトルは、すごくいいなと思うんですよ。童貞はセックスしないから悩む。その童貞の意味の無い悩みと、就活生が意味も無く悩んでつまずく、その姿勢ってリンクしてる気がして。(就活)童貞だから、セックスしてねーからうまくいかねーんだよ!っていう。
中川:そうそう、就活の悩みなんて、内定をまず一回すれば解決するって分かってないから就活で悩むんだ。
小野:友達で、千葉大の3年でつい最近まで童貞だった子がいるんですけど、就活がなかなか上手く行かなくて悩んでいる時に、北方謙三を読んで、ソープに行こうと決意して、西千葉の小汚いソープに行ったら、20代後半の子を指名したのに、40代後半の女性が出て来て。でもまあ、普通にしてもらうじゃないですか、で、女性が上に乗って動いてる時に、ふと天井を見上げたら、天井の鏡におばさんのシミだらけの背中が映っていて、それを見て「ああ、人生ってこんなもんなんだ……」と気づいて、それからは肩の力が抜けて、就活も内定取れた上に彼女まで出来たって子がいました。
中川:いい話じゃねぇか!
小野美由紀(おの・みゆき)
ライター・コラムニスト
1985年東京都生まれ。慶應大学文学部仏文学科卒業。卒業後、無職の期間を経て13年春からライターに。幻冬舎プラス「キョーレツがいっぱい」ALICEY「未婦人公論」など、連載多数。14年12月、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)を出版した。15年2月、デビュー作『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』を発売。