《少年野球時代は、友達の母ちゃんの握ったおにぎりを勧められても食べられなかった。今は番組のロケで“お世話になった家で手料理を味わう”なんてことになると、もう地獄!》(有吉弘行)
《人の握ったおにぎり食べられないんです》(ロンドンブーツ1号2号・田村淳)
テレビ番組やツイッターで、他人の握ったおにぎりが食べられないことを公言する芸能人を最近、よく見かける。
その傾向は一般人にもいえるようだ。女性セブンが30~50代の既婚男女各150人、計300人にネットでアンケートを行ったところ、〈コンビニと他人の握ったおにぎり、どちらが抵抗なく食べられますか?〉の問いに、「コンビニ」と答えた人は90.6%だった。
さらに他人の握ったおにぎりを食べることに〈抵抗があるか〉と聞くと、「ややある」「非常にある」が25%で、実に4人に1人。女性だけで見れば、30.6%が抵抗を感じているという結果が出た。
〈誰の握ったおにぎりを食べたくないか?〉の質問では、「とくにいない」を除いて、1位は「全くの他人」。2位「顔見知り」、3位「義父」、4位「友達の母親」と続いた。
なぜ他人の握ったおにぎりは食べたくないのか。取材してみると、その理由はさまざまだ。
「子供の頃、友達のお母さんが作ってくれたおにぎりから化粧品のにおいがして気持ち悪くなってしまい、それ以来食べられなくなりました」(50才・主婦)
過去のトラウマとは無関係だが、「お米の粒がつぶれたみたいにくっついていて、指のあとがついている感じが生理的にNG」(36才・主婦)と、人の手で握られていることそのものに抵抗を感じる人もいた。
コンビニで売られている、機械が握ったおにぎりは平気でも、人が握ったものには抵抗を感じてしまう――日本の食文化に詳しい愛国学園短期大学専任講師の竹内由紀子さんによれば、そうした傾向は最近増えてきたもので、1980年代後半から日本人の衛生観念が大きく変わってきたことが影響しているという。
「その頃からさまざまな抗菌グッズが出回り始め、ボールペンなどにも抗菌をうたうものが登場しました。電車の吊り革に触れない人が出てきたのもその頃からです。体に悪影響をもたらす菌だけでなく、すべての菌というものに対して無条件に恐れを抱くようになったんです」
トイレ掃除に4時間かける坂上忍(47才)や、掃除グッズマニアの今田耕司(49才)など、芸能界にも極度の潔癖症の人間は多い。社会心理学者で新潟青陵大学大学院教授の碓井真史さんが言う。
「以前は、生身の手で握ったおにぎりに『人間のあたたかさやぬくもり』を感じたものです。人の手で握ったおにぎりを食べられず、機械で作られたコンビニのおにぎりだけ食べられるというのは、世の中が機械的、無機質的なものしか受け入れられなくなってきているのだと思います」
その背景にあるのは、親戚づきあいや地域のコミュニティーの希薄化だと、竹内さんは指摘する。
「近所の人や親戚と一緒に食事する機会が減り、他人の手作りのおにぎりを食べる経験が減りました。人は慣れていないことに抵抗を感じるものです。そうした社会状況から他人との距離感がより遠くなったのだと思います。例えば、自分の母親のおにぎりだけは抵抗なく食べられる人がいますが、誰が握っても雑菌の数はほぼ変わらないと思います。
それでも母親のおにぎりなら平気というのは、そこに親への信頼感があるからです。他人のおにぎりを食べられなくなってきている社会というのは、他人を信頼できない社会とも言えるかもしれません」(竹内さん)
※女性セブン2015年5月14・21日号