中国人の消費欲求が止まらない。昨年日本を訪れた中国人観光客の、「爆買い」を含む滞在中の消費額は、5583億円(前年比102%増)で訪日外国人の中でダントツ1位だった。それにしてもなぜ彼らは、これほど日本製品に執着するのだろうか。「爆買い」帰りの中国人の生活をのぞいてみた。
広東省恵州市の建築業・廖愛民さん(45歳・男性)が住むマンションの名は、中国でも人気の村上春樹の小説名と同じ「ノルウェイの森」だ(実際は漢字)。居宅に一歩入りまず目に入るのが、リビングの壁に掛けられたパナソニックの液晶大画面テレビ。その下に鎮座するのは音響好きには有名な山水のオーディオアンプだ。
ローテーブルにはソニーのデジタル一眼レフカメラが置かれていた。台所にはパナソニックの電子炊飯器、冷蔵庫も電子レンジも日本製という充実ぶりに圧倒される。
さらにトイレには、一番のお気に入りだという東芝の温水洗浄便座「クリーンウォッシュ」があった。彼はそれを指しながら、「これは自慢の逸品。一度経験するとやみつきになります」とにこやかに話してくれた。
廖さんは、今年の春節(旧正月)の2月19日から3月5日まで、日本に留学中の長女に会うため日本に滞在した。昔から日本製品を好んで使用してきたというが、意外にも今回が初の日本旅行だった。「クリーンウォッシュ」もその時に買ってきた。
「今回の日本旅行で、化粧品、美顔器、サプリメント、温水洗浄便座に電子炊飯器、ユニクロの服、スポーツシューズ……だいたい5万元(約100万円)は使いました。中には中国の工場で作られているものもありますが、どういうカラクリなのか、日本で買う方が安くて作りもしっかりしているのです」(廖さん)
駐車場には廖さんの愛車・トヨタ(天津豊田)REIZ(日本名・マークX)とスズキ(重慶長安鈴木)S-CROSS(日本名・SX4 S-CROSS)が並ぶ。REIZは2006年に26万元(約520万円)、S-CROSSは昨年3月に15万元(約300万円)で購入。現地生産車だが日本ブランドへの信頼は高い。
「私は1980年代から自動車を運転し、その頃は日本の輸入車に乗ってました。ですから日本車の良さはよく分かっています。日本製品の魅力は総じて耐久性ですね」(廖さん)
聞けば廖さんのような富裕層が多い広東では、戦争の恨みにこだわる人は少ないらしく、彼も「戦争は過去のことでしょう。日中は仲良くしてきた歴史の方が長いんですよ。それで日本製品の愛用を躊躇するなんておかしいでしょう」と語った。
■取材/在中国ジャーナリスト・西谷格
※SAPIO2015年6月号