不調が伝えられる居酒屋業界だが、最近は酒やつまみの提供を機械に委ねる新たな潮流「自販機居酒屋」が生まれた。自販機居酒屋きっての“老舗”といえるのが、東京・中央区の茅場町にある「ニューカヤバ」だ。1964年の創業で、店内には焼酎用5台、日本酒用2台、ウイスキー用1台、全自動ビールサーバー1台の計9の自販機がずらりと並ぶ。生ビール(400円)以外はすべて1杯100円だ。
「20分くらいでサッと飲んで帰る方から、3~4時間滞在するお客さんまでいろいろ。最近は時間制限を設けている立ち飲み店も増えているようですが、うちは気の向くままに何時間飲んでいていただいてもかまいません」(女性店員)
自販機居酒屋というと格安な大衆店のイメージを抱くが、銀座3丁目にあるワインバー「GOSS」の雰囲気は対照的だ。高級感あふれる店内に置かれているのはイタリアで人気の「ワインディスペンサーシステム」を備えた自販機。窒素でワインの劣化を防ぎ、厳格な温度管理を施してワインを提供するシステムだという。
「人気のカリフォルニア高級ワイナリー、オーパスワンを常時置いています。もしかするとオーパスワンをグラスで飲める唯一のお店かもしれません。カップルのご利用が多いですが、男性同士、女性同士、外国の方もいらっしゃいます。銀座という土地柄、高級なワインを飲まれる方が多い」(支配人)
それにしても、なぜ「自販機居酒屋」がこんなにウケているのか。客に聞くと、さまざまな世相事情があった。30代男性客は、
「居酒屋で焼酎を注文しても、どんな焼酎を飲まされているのかわからないことが多い。自販機なら銘柄がはっきりしているから安心」
と、食の安全を理由に挙げる。
接客ストレスを指摘する声もあった。
「普通の居酒屋だと、なかなか注文を取りにきてくれなかったり、注文後もなかなか持ってきてくれなかったりでイライラする」(40代・男性客)
ストレスの原因といえば会社の人間関係だが、
「上司の説教が長くなってきた時でも、“お酒がなくなったから”といって席を離れやすいから気分的に楽」(20代女性)
という声もあった。
なかでも一番大きいのは、アベノミクスの恩恵が一向に及ばない一般サラリーマンの“生活防衛”の意味合いだろう。大人気番組『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)のパーソナリティーを務める酒場詩人・吉田類氏も価格は重要だという。
「牛丼チェーンでのちょい飲みブームもそうですが、今は1000円、2000円で満足できるかどうかが飲み客にとって重要になっている。女性も含めて、今までとは違う飲み方が広がってきていると思います」
撮影■村上庄吾
※週刊ポスト2015年5月8・15日号