長期安定政権を築く安倍内閣において、菅義偉官房長官こそが絶対的な要であると誰もが認める。しかしその彼がいま、沖縄基地問題において初めて矢面に立たされている。ノンフィクション作家の森功氏が迫る。
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それは菅義偉にとって、想定外の一撃だったかもしれない。四月五日九時四十分、那覇市のANAクラウンプラザホテル沖縄ハーバービューで対峙した翁長雄志(沖縄県知事)に菅は、反発を覚悟で話し合いの口火を切った。
「日米同盟の抑止力の維持と、そして危険除去、こうしたことを考えたときにですね、辺野古移設というのは、唯一の解決策であるというふうに、政府は考えてます」
米普天間基地の辺野古移設は、政府として譲れないという意志を表した。案の定、翁長はすぐさま反論した。
「辺野古の新基地は、絶対に建設することはできないという確信を持っております」
あくまで話し合いは平行線をたどった。そこまでは菅にとっても、予想できた反応だったに違いない。菅はいつものようなポーカーフェースで余計な言葉を極力ひかえ、ただ政府の姿勢を伝えることに専念しているかのようにも見えた。翁長も興奮する様子はない。そして、タイミングを見計らい、話題を切り替えた。
「官房長官が、『粛々』という言葉を何回も使われるんですよね。僕からすると、『問答無用』という姿勢が、上から目線のように感じられ……」
翁長にしてみたら、メディア受けするよう計算ずくで使った言葉だったに違いない。菅の態度が、かつて米軍統治下の沖縄で圧政を敷いたキャラウェイ高等弁務官の姿と重なる、とまで批難した。その計算通り、「粛々」という言葉がクローズアップされ、まるで権力を振り回す横暴なイメージを残した。
翁長との会談の席上、むろん菅は沖縄に対する気遣いも見せた。米海兵隊の垂直離着陸輸送機「MV22オスプレイ」訓練の県外移転に加え、米国の映画テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)が沖縄にやって来るよう協力するとまで言った。しかし、それも翁長には、まったく通じなかった。
菅義偉は、二〇一二年十二月の安倍晋三政権発足以降、霞が関の官僚や産業界に睨みをきかせ、官邸を差配してきた。「影の総理」とまで呼ばれる。歴代の自民党内閣のなかで、最強の官房長官と絶賛する声もある。だが、その菅でさえ、沖縄の基地問題では立ち往生している。
※SAPIO2015年6月号