廃部危機にある名門PL学園野球部は、新入部員もいないなか、春季大会大阪予選を勝ち上がり、最後となるかもしれない夏の甲子園に向けてチームを仕上げていた。しかし、そのベンチには「校長監督」として注目された正井一真の姿はなかった。
昨年10月に新入部員の募集停止を発表したPL野球部では、野球未経験者の校長が監督を務める異常事態が続いていたが、3月末で正井が退任。新たに校長に就任した草野裕樹が監督を務める。「新・校長監督」は前任者同様、野球未経験者だ。
4月18日の大会初戦に快勝し、報道陣に囲まれた草野は「逃げられませんね」と苦笑しながら野球部の存続問題に言及した。
「就任してすぐ、部員には絆の話をしました。グラウンドの中だけでなく、私生活でも上級生は下級生をかわいがってあげなさいと。野球を通じて教育するというのが第一目的。それが果たせれば、自ずと道は開けいくと思います」
だが、言葉とは裏腹に野球部存続への道は閉ざされたままだ。
本誌ではこれまで、学園の母体であるパーフェクトリバティー教団の意向により、廃部が既定路線になっていることをレポートしてきた。教団内部ではすでに廃部を前提とした計画が立てられているとの情報がある。教団関係者が明かす。
「野球部専用グラウンドに隣接する室内練習場を取り壊し、毎年8月1日に開催される教祖祭(PL花火大会)時の会員休憩所を建てることが決まっていると聞きます。また、もともと教団から寄付された土地であるグラウンドも、返還を求められています。グラウンドが教団本部の目の前という“一等地”にあることが上層部は気に入らないようです」
これまで学園側は室内練習場の取り壊し、グラウンド返還という情報にはノーコメントを貫いてきた。新・校長監督の草野が初戦後の取材対応を終えて駐車場に向かうところを直撃するとこんな答えが返ってきた。
「室内練習場の取り壊しはこれから詰めていかなければいけない問題です。施設を管理する別の担当がおりますので。グラウンドも教団から(返還を)求められているのは事実です」
野球部にはまだ3年生が21人、2年生が11人在籍する。報道陣には立て直しを匂わせながら、部員や保護者、OBには報告しないまま部の練習環境を奪う計画は確実に進められている。新しい校長のもとでも廃部への流れは変わっていない。(文中敬称略)
●取材・構成/柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2015年5月22日号