各局がしのぎを削るドラマゆえに生じる問題というものもある。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が指摘した。
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『アイムホーム』(木曜午後9時テレ朝系)、『Dr.倫太郎』(水曜午後10時日テレ系)、『天皇の料理番』(日曜午後9時TBS系)。春ドラマを視聴率順に並べたら、こうなるようです。今クールは、男性主人公の世界がウケているもよう。
個人的には『ようこそ、わが家へ』(月曜午後9時フジ系)や『64』(土曜午後10時NHK)にも期待しています。原作の骨格がしっかりしていて展開がスピーディー、演出は丁寧で緊張感が持続する。基本線がきっちり押さえられていれば、注文したい点はいくつかあってもドラマとして十分楽しむことができる。
ただ、春ドラマ全体を見回すと、気になることが一つ。それは、「カブリすぎ」問題。
たとえば『ようこそ、わが家へ』の冒頭、印象的なシーン。相葉雅紀演じる主人公のデザイナーに、厳しくダメを出す書籍編集者が登場。実にうまい! 出版社に本当にいそうな話ぶり、雰囲気。演じていたのはベテラン俳優・光石研。直感的に職業のクセや雰囲気を掴み、その役になりきってしまうあの名優。
それから3日後、キムタク主演『アイムホーム』が始まると……あれれ? 主人公・家路久が配属された第十三営業部の課長席に、またもやあの人が座っている。窓際に置かれても威張り続ける証券マン・轟春木を好演しているのは光石さん。相変わらず上手です。
さて、その『アイムホーム』で、かつて家路の部下だった黒木仁。ぴっと伸びた背筋、スリムな背広姿。いかにも切れ味の鋭い花形証券マン。演じているのは、これまた名優の新井浩文。いったいこの人の演技の巧さには何度脱帽させられたことか。
でも、その新井さんが2日後の『64』で主人公が属する県警広報部の係長となって登場してきた時には、ちょっと……。同クールに放送される複数のドラマに、こうも役者がかぶってくると、何だか頭がごちゃごちゃしてくる。
もちろん、役者のせいではない。地道に舞台や映画の現場で磨き上げてきた演技力、集中力。それが今、脚光を浴びて仕事が急増。ベテラン役者の活躍がテレビで目立つ時代へ。
昔、劇団で仕事をしていた経験がある私自身、役者という職業を続けていくエネルギーと勇気に対してはひたすらリスペクトしています。ベテランの仕事が増えるのは本当に喜ばしいこと。
つまり「カブリすぎ問題」は役者よりも、キャスティングする側の問題。いや、役者だけではない。ロケ現場だって大いにカブッています。
火曜放送の『戦う!書店ガール』(午後10時フジ系)には、吉祥寺のコピスやジュンク堂書店吉祥寺店がリアルに映し出される。その一方、翌水曜放送の『心がポキッとね』(午後10時フジ系)では、吉祥寺サンロードや井の頭公園が背景に登場してくる。
同じ場所をロケしているドラマが、同じ放送局で連日続くというのもどうなのか(制作は関西テレビとフジテレビが担当)。もちろん、たとえ撮影場所が重なっていても脚本や演出によって、まったく違う世界に見えてくることはありえるけれど、今回はかぶり感の方が強い。なんだか2つのドラマが地続きみたいに感じられて困る。
この「カブりすぎ問題」、最近拍車がかかってはいませんか?
いったん評判がたつと、同じ役者や場所に指名が集中? 誰かが太鼓判を押したとなると、今度はみんなで相乗り? 以前は出自がよくわからず相手にもされなかった役者が、いったん「個性派」として認知されると、一気に仕事殺到?
存在を知られていない名優は舞台や映画の現場にまだまだたくさんいるはず。魅力的な街や風景も、全国各地にたくさんあるはず。もっともっと未知の才能や場所を、それぞれの制作者の独自の目で掘り起こしていってほしい。一人を消費し尽くすのではなく、隠れた才能をいくつも見つけて育てていってほしい。
結果として、それがドラマ界を豊かにするはずです。いつか、アメリカのように、テレビドラマの地位が映画に伍し、いや、凌駕する時代が来るためには。ドラマへの愛をこめて。