日本のテレビ報道の劣化が叫ばれているが、「低俗な番組ばかりが増えて、国際情勢など日本にとって重要な問題がまったく報じられなくなった」と嘆くのは落合信彦氏だ。
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昨今のテレビを見て驚くことは、欧米では当然トップニュースになるはずの国際情勢が、日本のテレビでは取り上げられていないことだ。
たとえばこの間、アメリカのCNNを見てみれば、ギリシャがEUから脱退するかも知れないという話題をトップニュースとして扱っていた。
私は1980年にニュース専門チャンネルとしてCNNが開局してすぐに、創業者のテッド・ターナーに会っている。
その際、「24時間ニュースばかりでやっていけると思いますか」と聞いたところ、彼は「5年後には世界中の大統領や首相が見るようになる」と断言し、事実その通りになった。国際社会では、他国の情勢に関心を持つのは当たり前なのだ。
ところが日本では、国際情勢に関する報道の多くはテレビから消え、テレビによって愚民化された視聴者を喜ばす低俗な番組ばかりになってしまった。こうして日本人は、ますます劣化していくことになる。
世界の現実の代わりに日本人が好むようになったのが、「日本第一主義」だ。テレビには外国人が日本のことを褒めるだけの番組が溢れ、書店では外国人が書いた「日本が世界から尊敬される理由」といった類いの本ばかりが売れている。これではまるで頭をなでられて喜んでいる子供だ。
残念ながら日本人は世界で尊敬されてなどいない。それどころか、世界は日本への関心を全く失っている。
私は昨年フランスを訪れたが、フランスのテレビに映るのは中国関連のニュースや中国企業のCMばかりで、日本のことなど触れられもしない。
また、米調査機関ピュー・リサーチ・センターが発表した日米関係に関する世論調査によれば、なんとアメリカ人の73%は安倍晋三の名前を「聞いたことがない」と回答したという。安倍は「アメリカ議会で演説できる」と自慢げに意気込んでいたが、実際には名前すら知られていないのだ。
首相の名前さえ知らないのに、尖閣諸島のことなどアメリカ人が知るわけがない。なにしろ、アメリカではいまだに、「東京から北京までバスで何時間かかるんだ?」と聞く人がいるのだから。名前も知らない小さな島を守るために、海兵隊が血を流すことなどあり得るわけがない。これが現実なのだ。
日本人はいま、本当は世界から無視されている現状を見ようとせず、まるで「おとぎの国」にいるようなフリをして自己陶酔に陥っている。外国に行くと、日本が見えなくなる。だが、日本もまた世界を見ようとしないのだ。
※SAPIO2015年6月号