昨年日本を訪れた中国人観光客の、「爆買い」を含む滞在中の消費額は、5583億円(前年比102%増)で訪日外国人の中でダントツ1位だった。それにしてもなぜ彼らは、これほど日本製品にこだわるのだろうか。「爆買い」帰りの中国人に聞いてみた。
一回の訪日で100万円を使った! などのテレビ報道を見た方も多く、「爆買い=金持ちのやること」イメージもあるが、日本に来て大量に買い物をするのは、いまや一部の富裕層だけではない。
上海にある築30年以上はありそうな「老公房」と呼ばれる古びた団地の階段を上り、ワンルームの室内に上がらせてもらうと、中型のスーツケースが2つ、床の上に開けっぱなしの状態で無造作に置かれていた。女性の部屋にしては少し散らかっている。
家賃3000元(約6万円)ほどの部屋を、友人と2人でルームシェアしている安徽省出身の黄さん(仮名・25歳・女性)は、外資系広告会社に勤めるビジネスウーマン。4月の桜の時期に個人旅行で日本を訪れた。航空券は往復6万円。これだけで2か月分の家賃に相当する。
日本から帰ったばかりでそのままにしていたというスーツケースの中身を詳しく見せてもらうと、トランクの中はぎっしりと食べ物と美容グッズで占められていた。特にシーチキンは30缶ほど“爆買い”していた。
「日本で売られている海鮮食材は缶詰すら美味しい。シーチキンはそのままご飯にかけて食べています。塩加減もちょうどいいし」
彼女は10日間の日本滞在で20万円近く消費し、その半分をショッピングに費やした。なかでも2万円以上した美顔ローラー「ReFa」は最大の戦利品だった。友人に頼まれて代理購入したものも含まれているとはいえ、上海でリッチに生活するには少し厳しい年収15万元(約300万円)の彼女にとってなかなかの散財だ。しかも前回来日した10月にも、オーディオなど合わせて25万円ほどの買い物をしたという。普段はルームシェアで節約し、日本に旅行した時には思い切り使うスタイルのようだ。
彼女が日本製品にハマったきっかけは、3年前にたまたまネットで購入した目薬「サンテFX」だった。
「スーッと涼しくなるのが心地良く、こんな目薬は中国ではなかった。値段も30元(約600円)ぐらいで感動した」(黄さん)
以来、医薬品や美容グッズはほとんど日本製品を使うようになったという。
多くの中国人は日本のメーカー製であっても、中国で売られる中国人向けに作られた現地品は品質を疑い敬遠する。逆に、メイドインチャイナであっても「日本で販売されているもの」だと品質が保証されていると判断し、喜んで買い求めるのだ。
■取材/在中国ジャーナリスト西谷格
※SAPIO2015年6月号