日本のテレビ報道の劣化が叫ばれているが、「いまのテレビはローマ時代のサーカスと同じで、国家滅亡の前兆である」と厳しく指摘するのは落合信彦氏だ。
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私には、いまの日本がかつてのローマ帝国に重なって見えて仕方がない。もちろんローマと日本ではスケールも国力も比べものにならないが、ローマが衰退し、滅んでいった過程は、いまの日本と似ている。
ローマは帝国の巨大化に伴い、兵士の遠征に莫大なカネがかかるようになった。そのカネは、地方にある属州から税金として徴収するようにした。属州からの税金を高くする一方、カネのないローマ市民に対しては多額の援助、つまり「生活保護」を与えるようになった。
これにより、誇り高きローマ人は、昼間から酒を飲んで、ケンカをやって、皇帝を罵るような状態まで堕落してしまったのだ。
これが帝国を脅かす動きにつながることを恐れたローマは、皇帝が国庫から資金を拠出する形で、競技場を作った。後のコロセウムだ。ここで剣闘士同士の殺し合いや剣闘士と猛獣の争いなどを見せる。
このショーでローマの年間予算の3分の1が費やされた。ローマ市民は血が流れれば流れるほどエキサイトしていった。血を見て喜ぶだけの生活で、ローマ市民はどんどん思考停止に陥り、国家全体がニヒリスティックになっていった。かつては誇り高かったローマ市民が怠慢になってしまったのだ。精神のスラム化であった。
これが、ローマ帝国崩壊につながっていったひとつの原因、「パンとサーカス」と呼ばれるものだ。パンとは生活援助、サーカスは競技場を指す。これをいまの日本に当てはめると驚くほどマッチする部分がある。
政府からの援助金バラ撒きに多くの国民や団体が群がり、一方、庶民は愚民化の切り札とも言えるテレビにしがみついて、ストレスを解決する。これに加えて、ローマでは政治家たちのコラプション(腐敗)が増え、さらにリッチ(富裕層)とプア(貧困層)の格差がとんでもないものになっていった。
一つ日本の国会議員に私が頼みたいのは、古代ローマ史を是非学んでほしい。過去を知らぬ者は未来から突き放される。何も知らないまま、この国は歴史の過ちを繰り返そうとしている。
※SAPIO2015年6月号