中国人が日本のライフスタイルを「知る」ことをテーマとした中国の雑誌『知日』。毎回5~10万部売れているという。最大の特徴は、毎号、「推理小説」「雑貨」「明治維新」などの奇抜な特集を組み、話題をマニアックに掘り下げるスタイルを採る点だ。同誌編集長の蘇静氏(33)は各企画の背景をこう語る。
「例えば第3号の美術館特集。これは、ミュージアムに対する日中の視点の違いに興味を覚えたことがきっかけです。中国の場合、展示品に統一したコンセプトを持たせたり、観覧者に『空間』それ自体を見せたりする発想がまだまだ弱い。眺めてもつまらないから誰も行きたくないし、美術館でデートするなんて考えられない話です。
でも、日本の場合は違いますよね。『美術館はこんなに豊かな可能性がある場所だ』という気付きを、中国の読者に示したかったんです。『鉄道』特集もそうでした。中国の鉄道は、旧正月の帰省の際などに仕方なく乗るもので、ちっとも良いイメージがない。なのに、日本では鉄道を愛する人たちが大勢いて、乗る行為それ自体を楽しんでいる。この違いが自分のツボにはまりました。
ちなみに『鉄道』特集の売れ行きはイマイチだったのですが、現在はネット商店で、定価35元(約680円)の本に10倍のプレミアが付いています。増刷したいけれど、この特集を欲しがるマニアは、きっと中国全土で数百人ぐらいしかいないと思う(笑)」
過去、もっとも売れたのは「猫」特集で12万部。一方で売れなかったのは「暴走族」特集だった。中国の都市部はバイクの取得規制が厳しく、読者層が限られていたからだ。
●構成/安田峰俊(ノンフィクション・ライター)
※SAPIO2015年6月号