尖閣問題に端を発する反日デモが中国全土に吹き荒れた際、その煽動役はテレビ・新聞をはじめとする国営メディアであった。「中国共産党の舌と喉」とも評される彼らだが、実際に現場で働く人間たちはいかなる思想の持ち主なのか。ノンフィクションライターの安田峰俊氏がレポートする。
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「2001年、満洲事変記念日に中国全土でサイレンを鳴らす運動を提唱し、実現に漕ぎつけました。現在も日本からの戦争被害賠償要求運動を続けています」
往年の満洲国の旧都・吉林省長春市内でそう話すのは、ジャーナリストの王錦思氏(43)だ。過去15年間、「反日」的な文筆活動や民間運動を数多くおこない、政治活動家として知られた人物である。
「日本には良い点も多いですよ。過去の訪日時、中国のように警察が威張らない点に好感を持ちました。福岡駅で道を尋ねた際、駅員の方が親切に30分間も説明してくれたのにも感動しましたね」
活動内容に似合わず、王氏の言動は紳士的だった。だが、取材を進めるうちに元軍人や元警官を名乗る「同志」たちが室内に乱入し、私の写真をバシャバシャと撮り出した。
「彼らの行動に共感する日本人」として、対外宣伝に利用する心積もりらしい。こちらも際どい質問で反撃する。
──日本側に、皆さんの活動を援助する人間はいますか?
「一部の日中友好人士と在日中国人です。日本国内の支持組織の結成も準備中です」
──以前にサイレン運動を提唱した際は、中国の政治家を動かしたと聞きましたが。
「人民代表大会(国会)の議員たちに個人的に書簡を送り、協力を要請しました。ただし、あくまで民間運動としておこなった行為です」
──中国に純粋な「民間運動」は存在しません。当局のバックアップがありますよね?
「党の一部の支持があります。また、吉林省民政庁の監督も受けています。ただし、時には活動を制限される場合もあり、党の方針とすべて一致しているわけではありません」
──習近平政権の成立後、活動状況に変化はありますか?
「胡錦濤時代と比べ、体感的に3割ほど容易になりました」
中国のメディア関係者の対日認識は各人各様だ。だが、個人の権利が保障され、自由な発想や言動が許される点で、日本に対して、一目置く部分があるのも事実である。
日本が今後も健全な民主主義社会を維持することこそ、彼らを完全な「反日」に奔らせない最良の処方箋かもしれない。
最後に私は、王氏にこんな質問を投げかけた。党の指導者の意向次第で、文筆業や運動が簡単に制限される現状をどう思いますか。
「やるせない思いです。この点は……正直に言って、私は日本が非常に羨ましいのです」
※SAPIO2015年6月号