4月1日、日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」を公表した。同学会は2005年に作成した医療従事者向けのガイドラインの10年ぶりとなる改訂作業を進めており、一般からの意見募集を経て6月に正式決定する予定だ。
公表されたガイドライン案の中には、高齢者が「中止を考慮するべき薬物」のリストが含まれ、47種類の医薬品とその使用法が挙げられている。
対象となる高齢者が特定の疾患を抱える人に限られるものもあるが、「すべての高齢者」が使用中止を考慮すべきとされる薬も少なくない。
例えば、加齢とともに睡眠の質が変化し、浅い眠りが多くなるといわれる不眠症。歳を重ねて夜中に目を覚ます経験が増えれば不眠症と診断されることもある。
リストにはそうした際に処方される薬剤も入っているが、脳や神経に影響を与える薬剤だけに、使用にはとりわけ慎重さが求められる。
東京薬科大学薬学部・加藤哲太教授が説明する。
「脳内の情報伝達にはセロトニンやアドレナリン、ドーパミンといった物質が介在します。不眠症の治療薬の中にはそうした物質のうち神経を興奮させる物質の分泌を抑える作用を持つものがあります。
リストに載っているフルラゼパムなど『ベンゾジアゼピン系睡眠薬』や、ゾピクロンなど『非ベンゾジアゼピン系睡眠薬』がそれにあたる。高齢者の場合、そうした薬の成分の分解や排出がうまくいかず、日中の転倒事故や認知能力の低下を招く危険があります」
さらに注意すべきは脳や神経に作用する薬の中には、脂溶性の高いものが含まれることだ。
「ベンゾジアゼピン系睡眠薬の一種であるセルシンは脂に溶けやすい性質を持つので、体脂肪率が高い高齢者は薬効がより強く、長く続いてしまうリスクがあります」(同前)
※週刊ポスト2015年5月22日号