【話題の著者に訊きました】『恋づくし――宇野千代伝』(工藤美代子・著/中央公論新社/1863円)
「2年半ほど前に、知り合いの女性編集者が大失恋したんですね。生きるか死ぬかの大騒ぎだったので、宇野さんの随筆にあるように、『泣くだけ泣いたら、綺麗にお化粧して一番いい服を着て、誰でもいいから会いに行きなさい』と彼女に本をすすめたんです」(工藤さん・以下「」内同)
宇野千代について書きたい気持ちは前からあったので、それを機に作品を再読、自伝『生きて行く私』の、何度男に裏切られてもまた立ち上がる姿に感銘を受けたという。この人が書いていることがどこまで本当なのか知りたい、というノンフィクション作家としての興味もあった。
歴代の男たち、作家の尾﨑士郎や北原武夫、画家の東郷青児が書いた文章と、宇野の自伝には少しずれもあるそうだ。
「最初の夫と気持ちよく別れた、と彼女は書いているけど、尾崎士郎の小説を読むと、夫は北海道から東京に出てきてしっかり嫌味を言っているんです。彼女が『関係を持たなかった』と書いている梶井基次郎についても、尾崎は煙草を投げつける決闘場面を書いています」
男から見た宇野千代像が非常に頭が良い理詰めの女性になる、というのも面白い。彼女自身、決して作品の中で見せなかった姿である。
「男たちは、裏切った自分が悪いとわかっているから、よけいにそう思ったのかもしれませんね。千代さんはいつも愛情の大盤振る舞いで、おいしいものを食べさせ、高い着物を買って着せ、いい家を建ててあげる。それなのに、無名で貧乏だった男が、立派な芸術家として世間に認められ、お金も入ってくるようになったとたんに若い女と一緒になって子供を産ませるんですから」
去った男を追わない。こんなに愛したのだから、相手にも同じだけ愛情を返してほしい、そんな損得勘定とは無縁の人生だった。
「気前がよくて、懐が深い。与えることの好きな人。千代さんの生涯を追いかけて、結局、私ってけちな人間だったんだなって思い知りました(笑い)」
フィクションで書くか、ノンフィクションで書くか迷ったが、興味を持った相手と「寝る」ことで関係を始めた彼女の人生で、いちばん大事な「性愛」の場面を描くことに重点を置くため、今回は小説として描くことを選んだ。
「写真を見てもわかりますけど、千代さんってものすごくきれいで色っぽくて、自分に自信もあったと思うんですね。今はようやく中高年の女性もセックスについて普通に話せるようになってきましたけど、宇野千代は、100年ぐらい時代の先を行った人なんです」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2015年5月28日号