5月17日に実施された「大阪都構想」をめぐる住民投票は僅差で反対票が上回り、この結果を受けて橋下徹・大阪市長は政界引退を表明した。そもそも大阪都構想をめぐる橋下氏とそれ以外のオール会派の争いは、市民そっちのけでお互いを罵り合う、官邸や中央政界を巻き込んだ壮絶なものだった。
投票前最終週の世論調査の結果では「反対」が優勢と出るなど、情勢不利に立たされた橋下氏に対し、維新の党は「都構想対策本部」を12日に立ち上げ、全国の国会議員や地方議員ら約1000人を目標に大動員してバックアップする方針を決定。党を挙げた総力戦で決戦に備えた。一方、自民党では援軍要請する大阪府連に対する党本部の腰は重かった。
なぜなら安倍晋三首相は1月のテレビ番組で「都構想には意義がある」と橋下氏にエールを送っており、そもそも中央と大阪の足並みが揃っていなかったからだ。
安倍首相が都構想支持を打ち出した理由について、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が解説する。
「維新の党は江田憲司代表系、旧民主系、それに“橋下チルドレン”も半分の約30人を抱える寄り合い所帯です。安倍首相の目指す憲法改正には貴重な戦力となる。都構想にエールを送るかわりに、住民投票後は維新の党をまとめて憲法改正に繋がるメッセージを発信してもらいたいという思惑が絡んでいます。党として本来助けるべき府連の支援に及び腰になったのは、官邸の意向があったからに他なりません」
自民だけでなく、民主も橋下氏を利用したい思いは同じだ。12日には江田代表と民主の前原誠司・元代表が会談し、住民投票後の政局を話し合った。
「野党再編を睨む前原氏としても、『脱原発』など橋下氏と主張の合うテーマを切り口に維新とも一緒に行動する道筋を探っている」(鈴木氏)
要は都構想を利用して橋下カードを掌中に入れようという“プロ政治家”に、橋下氏が利用され続けたという構図である。住民投票の舞台裏は、橋下人気をどう生かすか腐心する安倍首相や前原氏らによる値踏みの場だったとすれば、大阪市民は浮かばれない。
「負ければ辞める」と退路を断ち、実際に政界引退を表明した橋下氏だが、「もともと勝とうが負けようが、『利用価値』は変わらない」と前出・鈴木氏は指摘する。
「2万%出馬はないといって府知事選に出た人物ですから。むしろ、5・17決戦は橋下氏を巡る争奪戦の解禁日になるのではないか」
中央政界に弄ばれた橋下氏は単なるピエロで終わってしまうのか。「政治家は使い捨て」とはいわれるが、ポイ捨てされるかどうかは、完全に陰りが見えた橋下ブランドの立て直しにかかっている。
※週刊ポスト2015年5月29日号