シンガポール建国の父、リー・クアンユー(李光耀)元首相が3月23日に91歳で亡くなった。国葬には安倍晋三首相ら各国首脳をはじめ約2200人が参列し、カリスマ指導者の死を悼んだ。短期間でシンガポールを発展途上国から先進国へと発展させたリー氏の死後、シンガポールはどうなるのか? 1978年にシンガポール経済開発庁(EDB)のアドバイザーを務めた大前研一氏が語る。
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今やシンガポールにはグローバル企業500社のアジア拠点があり、「ヒト、モノ、カネ、情報」が集まっている。まさに私が35年前に提言したASEANのデファクト・キャピタルとして金融や物流、情報通信、プロフェッショナル・サービスのハブになったのである。
さらにシンガポールは自国の成功モデルを確立したあとは、そのシステムを輸出して稼いでいる。たとえば、2000年を期限に世界トップクラスのIT立国を目指して1986年に創設されたナショナル・コンピュータ・ボード(コンピュータ省)は3年前倒しで目標を達成して民営化され、そのノウハウを情報化が遅れた国の政府などに輸出している。
シンガポール港の整備、維持、管理、船舶の運行管理などを行ってきたシンガポール港湾庁(PSA)も1997年に民営化され、世界中の港湾で競争力を強化するためのコンサルティングを請け負っている。あるいは、インドやベトナム、中国(蘇州)などで工業団地を造り、ヒトもカネも出して工業の近代化を手伝っている。
では、リー氏なきシンガポールは、これからどうなるのか? 合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の平均数を示す指標)が1.29(2012年)で日本より低いのに外国人労働者の排斥を始めているため、今後は下働きをする人が不足するだろう。あるいは、官民とも上層部がエリートではあっても経験やスキルが不足している人たちばかりなので、その限界が噴き出してくるかもしれない。
リー氏の長男であること以外に取り柄のないリー・シェンロン首相の求心力も次第に低下するに違いない。したがって、ここから先はさらなる経済成長はもとより、現在の生活レベルを維持することも難しくなるのではないか。
※SAPIO2015年6月号