名護市辺野古への普天間飛行場移設を巡り、この4月以降、菅義偉・官房長官の沖縄訪問を皮切りに、安倍晋三・首相、中谷元・防衛相など政権幹部が次々と翁長雄志・沖縄県知事と面会した。
話し合いはいずれも物別れに終わったが、菅氏の「粛々と」発言に象徴されるように政府には譲歩するつもりは毛頭ないのだから、それらが政権側による“説明は尽くしましたよ”というアリバイ作りであることは容易に想像できる。
何が何でも辺野古移設──それが安倍政権の基本路線だが、それに大メディアも同調していることが、安倍首相とオバマ米大統領の首脳会談後の共同記者会見の誤訳問題で露呈した(4月28日)。
オバマ氏の発言をNHKは同時通訳で、「沖縄の普天間基地の移転について、より柔軟に対応したいと思います」と伝えた。
それを真に受けた産経新聞のニュースサイトは、
〈(オバマ氏は)米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を推進する方針に関し「より柔軟に対応する」と表明した〉
と速報し、読売新聞は翌日(29日)朝刊で、
〈普天間飛行場移設問題について、オバマ氏は「より柔軟に対応したい」と述べ、首相は「負担軽減を日米の強い信頼関係のもとで進める」と日米の連携を強調した〉
と書いた。これだけだと日米が辺野古移設後の方針を確認し合ったように見える。
真実は報道と真逆だった。オバマ発言を正しく訳すと、
「沖縄に駐留する海兵隊のグアムへの移転を前進させることを再確認した(I reaffirmed our commitment to move forward with the relocation of Marines from Okinawa to Guam.)」
となる。在沖縄の海兵隊の「グアム移転」と「辺野古移設」では全く別物である。こんな極端な間違いを大メディアが一斉にするとは驚くべき語学力だ。要は、アメリカは辺野古にそれほどこだわっていないのに、あえて重視しているかのような訳し方をしたのだ。
NHKは放送の翌朝にオバマ発言は誤訳だったとして訂正し謝罪した。外交相手と国内向けに違うことをいう。そうした“二枚舌”は日本政府・外務省の長年の得意技だが、今回はそれにメディアが加担した形だ。
明らかな誤訳だった場合、通例では外務省が抗議を行なうはずだが、その形跡はないから、誤訳は、なぜか官邸にとっては都合が良かったらしく、だから御用メディアも安心して誤報できたのだろう。
※週刊ポスト2015年5月29日号