中国の社会は今、まさに激動の時期にあるようだ。拓殖大学教授の富坂聰氏が指摘する。
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習近平政権の進める「反腐敗キャンペーン」、「ぜい沢禁止令」などにより中国の役人の旨味は急速に失われているがついに公務員の間に離職ブームが到来しているようだ。
もともと中国の中で最も身分が安定していた公務員だが、綱紀粛正の嵐が吹き荒れる中国では、大衆から些細な問題を密告されただけで失脚するケースが相次ぎ、いまや最も身分の安定しない職業の一つとなっているというのだ。
賄賂は言うまでもないが、さまざまな名目で受け取っていたプレゼントも問題視されているため、収入的なアドバンテージもない。
中国社会に現れた“官僚離れ”の傾向は、すでに2014年の新卒学生が敏感に感じ取り表面化している。同年3月31日付米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、新華社の記事を受け、
〈新華社通信が伝えたデータによると、調査対象となった23の省や地方自治体のうち16の地域で、公務員試験の出願者数が減少した。さらに今年は、出願者の30%に相当する40万人超が受験を棄権した〉と伝えている。
今回も役人たちが官職を捨てる環境は整っているということだが、意外なことに公務員離れの現象を引き起こしているのは、転職を希望する官僚の側ではなく企業による引き抜きなのだという。
中国では1992年以降何度も官僚の大量離職という現象が起きてきているが、そうした波の裏側には必ず起業の潮流が生まれていたのだが、今回に限ってはそうではない。
4月27日付『新京報』が報じたところによれば、官僚たちはいま不動産会社、金融、そしてインターネット関連の企業の草刈り場になっているというのだ。
不動産、金融、インターネット業界はそれぞれ市場よりも政治との結びつきを大切にする傾向がある。そして企業がそうした官僚を欲しがるのは、すなわち業界にはまだ公正な競争が働いていないことを意味しているという。