デビュー10年目をむかえた、いきものがかり
5月13日に30枚目のシングル『あなた』をリリースした、いきものがかり。デビュー10年目となる今年は2年半ぶりに全国ツアーを行うなど、3人の勢いは止まりそうもない。長く、広い層から支持を得ている理由は何か。人気の秘密を音楽評論家の富澤一誠さんに聞いた。
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ご存知のとおり、いきものがかりはボーカルの吉岡聖恵、ギターの水野良樹、山下穂尊の3人組です。彼らは等身大のリアリティーを歌詞に乗せているので、同世代の人たちの「私もそう思う」という共感を呼んで、今の人気につながっているのだと思います。
これまでの時代を代表する女性ボーカルというと、50代の人たちが思い浮かべるのは松任谷由実、ユーミンですよね。たとえて言うなら、ユーミンは六本木や西麻布のような街を外車で回るような、そんなお洒落さがありました。実際に、夏は湘南、冬は苗場がかっこいいというイメージを定着させました。
続いて現れた女性ボーカルが、DREAMS COME TRUEの吉田美和です。こちらは渋谷や下北沢のような街を自転車で行くような親しみやすさがありました。ユーミンと同じく、一歩先のライフスタイルを提唱しました。
そしていきものがかり。彼女たちは外車でも自転車でもなく、原宿の街を仲のいい友達と一緒に歩くような楽しさがあります。
メロディーのセンスもいいですね。聴いていて馴染みやすく、カラオケでも歌いやすい。CMでよく使われるのは、サビがとてもキャッチーだからです。
私はいきものがかりを「サテライト・ポップス」の代表的アーティストだと思っています。サテライトというのは、サテライトシティ(衛星都市)から取っています。彼らは神奈川県の海老名市と厚木市の出身。自分たちの住んでいる町は都会ではないけれど、電車に一時間も乗っていれば都心にも出てこられる。そんな場所で育った彼らは、都会のことも地方のこともよく知っています。彼らが都会っぽい洗練された曲も、田園風景を思わせるどこかなつかしい感じの曲も作れるのは、サテライトシティで育ったからなのだと思います。
一回売れるとそれですべてを出し切ってしまい、次に続かなくなるアーティストもたくさんいますが、彼らは変わらず精力的に曲作りをしています。これはまだ自分たちの表現したいことを出し切っていないということです。彼らの勢いはまだまだ続くでしょう。新曲の『あなた』は、ただのラブソングではありません。歌詞のラストフレーズに、しあわせを願う言葉があるように、強い意志を持った前向きのメッセージになっています。いうならば<ラブ・メッセージ・バラード>で、新しいチャレンジです。『あなた』を聴いて、「いきものがかりはこれからも新しい世界にチャレンジしていくんだ」という意気込みが伝わってきました。