初日だけで3000人が来場。200分待ちの日もある特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」。東京国立博物館 平成館(東京・上野)で6月7日まで開催されるこの人気の特別展を作曲家・千住明さんが巡る。多くの人々を魅了してやまない、この鳥獣戯画の魅力とはなんなのだろうか?
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国宝・鳥獣戯画は、甲・乙・丙・丁の4巻からなる日本で最も有名な絵巻物。読者のみなさんも、一度は、ウサギとカエルの相撲や、ウサギとカエルがサルを追いかけるシーンなどを目にしたことがあるはずです。でも実際は、いつ、だれが、何のために描き、どのようにして高山寺に伝えられたのか、まったくわかっていない、謎多き魅惑の作品なのです。
順路は逆で、丁・丙・乙・甲の順。もちろん、これにも訳があります。それぞれに素晴らしい作品であることは疑う余地もありませんが、中でも群を抜いているのが、ウサギやサル、カエルたちが、人間さながらに遊戯や儀式を行う様を描いた甲巻で。
“いちばん、おいしいところを最後に持ってきて、より深い感動を味わってもらおう”という博物館の意図に、ぼくもまんまとはまってしまいました。では、一体、何がそんなにすごいのか?
まず最初に惹きつけられたのは、動物たちの表情でした。図録などで見るより何倍も人間味にあふれていて。感情のほとんどを目と口で表現しているわけですが、だからこそ、いつまでも印象に残ります。
今も目をつぶると、キツネの「にいっ」と笑っている目が浮かんでくるほどです。
ストーリー性やスピード感にも圧倒されました。まるで映画やアニメを見ているような、ひとつの完成された世界観があり、その楽しさは万国共通、世界中の誰もがひと目でわかる作品になっています。文字がないのに、これだけわかりやすくなっているところは、西洋の教会にあるステンドグラスに近いといってもいいかもしれません。階級も職業もさまざまな人が訪れた教会のステンドグラスは、文字の読めない人でも楽しめるように構成されています。
ステンドグラスは左下から順番に、鳥獣戯画は右から左へという違いはありますが、説明がいらないという点では酷似しています。
墨と数本の筆だけで描いたファンタジックワールド。深夜、動物たちが動き出し、物語を紡いでいくおとぎ話のような世界は、古くから日本人の心を捉えてきました。その技法と構成力が、江戸時代の浮世絵に生かされ、今日、日本の文化でもある漫画へと引き継がれている。そうして考えると、日本人が鳥獣戯画に魅せられる理由もわかるような気がします。
生き生きとした動物たちの表情にいきなり心を奪われ、場面転換として巧みに描かれた草木でスピードをやや落とし、クライマックスに向かって、一気に歩むスピードも上がっていく… それは、まさしくエンターテインメントの世界でした。
【東京国立博物館 平成館】
開館時間:午前9時30分から午後5時。金曜は午後8時まで。
土日祝は午後6時まで。(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜
※女性セブン2015年6月4日号