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松谷みよ子さん 離婚した夫と隣の墓へとの提案に「いいね」

『モモちゃんとアカネちゃん』シリーズや『いない いない ばあ』などの著作で知られる児童文学作家・松谷みよ子さんが、今年2月28日に老衰で亡くなった(享年89)。松谷さんは、早くに離婚をして子供を1人で育てながら仕事をしたシングルマザーでもあった。「モモちゃん」のモデルでもある長女・瀬川たくみさんが、松谷さんの最後の誕生会の様子と、父について語った。

文/井上理津子(ノンフィクションライター)

〈松谷さんは2015年2月15日に89才の誕生日を迎えた。この日、施設に行ったたくみさんは松谷さんに、事務所のスタッフも集える20日にお誕生会をしようということになったと報告。それに対して松谷さんが「じゃあ、鰻を食べたい」と言うほど、ひと時の元気を取り戻していた。そんな折に、母子だからこその気のおけない話をした。〉

「お墓をどんな感じにしたいか決めておいてくれない?」

 私は母にそう聞いて、「パパのお墓と並べる?」と持ちかけました。母は、私が10才のときに離婚しましたが、本当は父のことが今もすごく好きだと、私にはわかっていたので、ふたりを同じお墓に入れてあげたかったのです。

 すると、母は「それはいいね」ってにこやかに答えたんです。私は「やった!」って。それで、冗談ぽく「でも、ママのお墓は大きくしなきゃいけないけど、パパのお墓は小さいよね」とたたみかけたら、「私のお墓も小さいのでいい」とはっきりと言いました。私も父が大好きなので、母が「離婚を挽回した」と思えて、すごくうれしくなりました。

 離婚はしたが、松谷さんもたくみさんも「好き」だったという父・瀬川拓男さん(享年46)は、劇団「太郎座」の主宰者だった。

〈松谷さんの代表作の一つ「モモちゃん」シリーズの第一作『ちいさいモモちゃん』は、たくみさんが3才の時、「私の生まれた時のお話をして」とせがんだのがきっかけで誕生したとされる。初めてしゃべった日のこと、水疱瘡になって注射を打ったことなど日々のエピソードが描かれ、擬人化された食べ物や動物も登場するファンタジーだ。7才違いの妹アカネちゃんが生まれ『モモちゃんとプー』、両親の離婚を受け入れていく『ちいさいアカネちゃん』…と、実話をもとに続くが、実際の家庭はどんなふうだったのだろう。〉

「ママは働く人」。幼い頃の私にはそれが日常でした。1才から保育園でしたし、家には劇団員たちがいつもいました。専業主婦のお母さんがいる家と比べたこともなく、それが自然だったのです。

 実は「モモちゃん」シリーズは、そんな日常が面白い題材になるよと坪田譲治先生にすすめられて書き出したと、私は聞いています。

 小学校4年生の頃、家に帰ってランドセルを置くと、その時ついていたテレビに母が出ていてびっくりしたことがありました。それも「ほうずきの歌」を歌い出して…離婚した後、よく「うぐいす姫」の劇中歌を台所で歌っていましたが、まさかテレビの中で歌い出すなんて、衝撃的な思い出です。

 家で、私が好きだったのは、父と母が向かい合わせの机で仕事をしているのが見える場所。母が原稿用紙に、しゃかしゃかと万年筆で書く音とにおいが大好きでした。時々「ねえ、ママ。やらせて」と、原稿用紙にインク取りの紙をあてさせてもらうのが、うれしかった。そんな様子を見守る父の机の近くには、岩波書店の本がずらりと並んでいました。父と母は本当に仲がよかったんです。

 父は並外れてかっこよかった。私、父に怒られるのまで好きでしたから。例えば、私は昔、ラーメンにこしょうをたくさん入れるのが好みだったんですが、小学校2年生の時、遊びに来ていたお友達に「おいしいから、かけなよ」ってラーメンにこしょうを入れたら、その子が泣きそうな顔をしたんです。それを見ていた父が「よけいなことをするな」と、ものすごい勢いで私に怒ったんですが、怒られながら、「パパ、かっこいい」って(笑い)。

※女性セブン2015年6月11日号

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