今年のカンヌ国際映画祭で起きた、ある“事件”。「女性は正装でハイヒールを履かなければならないのか?」――そんな論争が、今、世界に広がっている。
20年以上にわたってカンヌをはじめとする国際映画祭を取材してきたジャーナリストの佐藤友紀さんはこう説明する。
「まずはっきりいえるのは、『カンヌ国際映画祭』にはやはりドレスコードがあるということ。10年ほど前ですが、私の知人夫婦がドレスコードを理由に入場拒否されました。とってもおしゃれなご夫婦で、そのときご主人は日本の高級デザイナーズブランドのスーツを着て行かれたんです。値段が数十万円もする高価なもので、非常にハイセンスだったんですけど、それは受け入れる側にとっては正装じゃないから、まったく無意味なことだったんでしょうね。
カンヌでの正装は、すべての映画、そして映画人に対する尊敬の意を表すから、開幕以来重んじられてきたんです。だからよく見てもらえればわかると思いますが、レッドカーペットの脇で取材するカメラマンも正式なコンペティション部門ではタキシードを着用していますよ」
実際、今回の「ある視点」部門のオープニング作品となった『あん』でカンヌ入りを果たした河瀬直美監督(45才)も、この大論争についてこう話している。
「映画というものを囲む誰かに対する敬意みたいな、そういうものだと思うから、(ドレスコードは)あってもいいと思いますけどね」
実はカンヌ映画祭での正装については、時と場所によって、その基準が異なるという。
「例えば『ある視点』部門は上映される劇場が異なることもあって、『コンペティション』部門ほど厳しくありませんし、時間帯でいえば昼より夜のほうがドレスコードは厳しくなります。『海街diary』は『コンペティション』部門で昼に上映されたんですが、取材陣には軽装の人も見られましたから、(出演者の)綾瀬はるかさん(30才)や長澤まさみさん(27才)がドレスコードについて夜の上映作品ほど厳しく言われたことはなかったはずです。
しかし同じ部門でも、夜に上映された『キャロル』などではカメラマンもすべてタキシード着用ですから、出席者は相応の格好をしなければいけません。
それから私たちジャーナリストはプレスパスを持っているんですが、それがあれば『ある視点』部門の正式上映には入場できますが、『コンペティション』部門ではそうはいきません。特に夕方から夜にかけてのいちばん素敵な時間帯の上映は、パスだけでは入場できませんし、きちんとドレスアップしていかなければいけません。それほど敷居が高いということなんです」(前出・佐藤さん)
今回、日本人の俳優や女優も多数カンヌ入りしていたが、彼らのファッションは現地でどう見られていたのか?
「『岸辺の旅』の深津絵里さん(42才)は、襟付きの黒いロングドレスでチラッと片脚がのぞいて好印象でしたし、一緒にレッドカーペットを歩いた浅野忠信さん(41才)も、いつものファンキーなスタイルを封印して堂々とタキシードを選んでいて正解。かつてオダギリジョーさん(39才)が、ちょっと個性的なスーツでレッドカーペットを歩いたことがあるんですけど、それはドレスコード的にはぎりぎりだったかもしれませんね」(前出・佐藤さん)
また2000年、大島渚監督(享年80)が映画『御法度』でカンヌ入りした際に同伴した妻の小山明子(80才)は着物で出席。もちろん足元は草履なので、かかとはまったく高くない。しかし…。
「これは現地で評判になっていましたよ。大島監督も以前、羽織袴姿が大好評でした。日本では着物が第一級の正装ですし、それが現地でも賞賛されたんです」(前出・佐藤さん)
大島・小山夫妻のように、「正装」といってもさまざま。ドレスコードがハイヒールだからといっても、慣れない高いかかとのせいでよちよち歩きになるくらいなら、少し低めでもきちんとした姿勢で歩けるほうが、よっぽどTPO的に正解といえる。
※女性セブン2015年6月11日