安倍晋三・首相が米議会演説(4月30日)で「夏までに成立させる」と国際公約した安保法制関連法案の国会審議が始まった。官邸は審議時間などを逆算し、6月19日が衆議院での強行採決のタイムリミットとみているという。
官邸が法案成立への「最大の障害」と懸念しているのは、野党でも国民世論でもなく身内の中谷元・防衛相の存在だという。防衛大学卒の元自衛官で、今回の安保法制でも集団的自衛権の与党協議メンバーを務めるなど「安保のプロ」と見られる人物だ。
ところが、記者会見で「(今回の法案で)隊員のリスクは増加しない」と発言して野党の集中砲火を浴びている。特別委員会の自民党メンバーが語る。
「誰が見てもこの法案で自衛隊員のリスクが高まるのは明らかだ。国民の安全を守るためだから隠す必要はない。総理は党首討論で『リスクとは関係ない』という言い方で乗り切ったのに、担当大臣の中谷の発言にはみんなのけぞった。
官邸は中谷がコケれば法案は終わりだと危機感を募らせ、答弁でボロが出ないように“一から勉強させろ”と指示した。いま、中谷は毎日朝6時から官僚に法案の勉強をさせられている」
さらに中谷氏は野党側から「武力行使」と「武器使用」の違いを問われ、「それもわからないのか。わからないなら議論できない」と答弁。大きな反発を浴び陳謝に追い込まれた。いよいよ官邸では、「日程に影響が出ないように急病扱いで交代させ、後任には安倍首相の覚えめでたく、口がうまくて答弁にソツがない小野寺五典・元防衛相を起用するシナリオが練られている」(同前)という。
大臣の首をすげ替えてまで、強行採決のスケジュールを押し通す姿勢なのだ。
※週刊ポスト2015年6月12日号