救急車とは本来、“緊急を要する人が利用するもの”。しかし、消防白書によると、2013年の救急搬送者は半数近くが軽症患者だった。そんななか、あがったのは「救急車有料化論争」だ。“軽症だった場合には、使用料をとる”という提案だ。これに関し、賛否両論の議論となっている。
そもそも救急車が無料なのは、必要経費を税金から捻出しているからだ。1回の出動にかかるコストは4万円以上といわれている。“乱用”はたしかに“無駄遣い”といえる。しかし、そうはいっても「救急車の有料化」にどこか違和感を拭えないのは都内に住む主婦のA子さん(58才)だ。
「救急車が有料になったら、いざというときに電話するのをためらってしまう。遠慮して対応が遅れてしまって命にかかわることがあるのではないでしょうか」
川越救急クリニック院長の上原淳さんは「高齢者にとって救急車は命綱」と指摘する。
「救急を利用する患者さんで最近増えてきているのは、ご高齢のかたです。特にバスや電車が動いていない夜間に、自力で病院に行くのはかなり難しい。タクシーを呼ぶお金はないし、インターネットを使うことができなくて夜間診療をしている病院を調べることもできない。それで仕方なく救急車を呼んでいるというケースがだんだん増えているんです。軽症であれば料金をもらうなど、ある程度の有料化は賛成ですが、そういう高齢者にまで救急車の利用を控えてほしいとはいえません」
さらに、北海道で看護師を務める38才の女性は、新たな問題が浮上する可能性に不安を抱いている。
「有料化にすることで逆に“乱用”が広まるのではないでしょうか。『お金さえ払えば、いかようにも使う権利はある』と簡単に救急車を呼ぶ人が増えるかもしれません」
有料か無料か。イチかゼロかの議論ではなく中身の検討が待たれる。そして、無料でも有料でも忘れてはいけないのは、私たち利用者のモラルなのだ。
※女性セブン2015年6月11日号