自らを脅かす対抗勢力を次々と粛清し、独裁化に突き進む習近平氏。その強面の一方、疑心暗鬼に陥り、暗殺に怯える日々だという。中国共産党の内部事情に精通する産経新聞中国総局(北京)特派員、矢板明夫氏が北京からレポートする。
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中国の習近平国家主席は5月14日、初訪中したインドのモディ首相を自分の故郷である陝西省西安に招待した。小説「西遊記」の主人公で、唐の時代の僧侶、三蔵法師玄奘がインドから持ち帰った経典を保管した場所である仏教寺、慈恩寺を自ら案内した。
翌日、中国メディアに大きく掲載された、二人が同寺の境内にある著名な建物、大雁塔の前で握手を交わす写真を見て、違和感を覚えた中国人が多かった。西安を代表する観光スポットとして知られ、いつも観光客でごった返している同寺の境内はがらんとしていて、習近平とモディ以外は、人の影は全くなかった。
「まるで二人だけの世界だ」「ほかの人をみな追いだしたのか」と言った書き込みがインターネットに寄せられた。
西安の観光業者によれば、習近平らの慈恩寺訪問の事前発表はなかったが、その約一週間前から同寺の入り口に「内部修繕のために営業を停止する」との紙が張り出された。
しかし、外からみて工事をしている気配はなかった。その後、大勢の警察官が周辺で厳しい警備態勢を取るようになり、近くの植え込みや下水道などに爆発物が仕掛けられていないかなどが徹底的に調べられた。ものものしい警備ぶりから「習主席が来るのではないか」と地元で囁かれはじめたという。
暗殺を恐れる習近平の周辺は、常に最高級の警戒態勢がとられていることは、中国の一般民衆もよく知っているようだ。
※SAPIO2015年7月号