7年以上にわたって会社経営者の男性と不貞行為を続けた銀座のクラブのママに、男性の妻が慰謝料400万円の支払いを求めて起こした裁判が話題となっている。当然ながら、妻は夫とママの関係を“不倫”と感じて、それによって夫婦生活の平穏が害されたとして訴えを起こした。
これまで、既婚者が配偶者以外の人間と肉体関係を持てば、愛情の有無にかかわらず不貞行為に当たるとされてきた。しかしこの昨年4月に出された判決は、その前例をひっくり返す仰天の内容だった。
《クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない》
これは裁判の判決内容を抜粋したものだが、わかりやすく説明すると、ママが男性と肉体関係を結んでいたのは優良顧客を確保して店の売り上げに貢献するための営業活動で、不倫でもなければ不貞行為でもなく、夫婦関係を乱すものでもなかったという判決なのだ。
つまり、ホステスが男性客といくらセックスを重ねても、それはビジネス上の立派な“営業努力”であり、妻が夫とホステスの関係を知ってどんなに深い精神的苦痛を味わっても、慰謝料も取れなければ泣き寝入りするしかないと認めたに等しい。今回の裁判で妻の代理人を務めた青島克行弁護士はこう警鐘を鳴らす。
「“ホステスの枕営業だから慰謝料は払わなくていい”のであれば、相手が水商売の女性である限り、妻はその女性を責められなくなります。逆に妻がホストにはまっても、“ホストの枕営業だから”と夫からホストに対する慰謝料請求も認められなくなるでしょう。
判決文は、枕営業は売春婦と同様“顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない”と指摘しますが、この考え方に賛同できる人がどれだけいるでしょうか。最高裁判例にも反するだけでなく、より本質的には日本の婚姻制度を破壊する前代未聞の暴挙です」
長瀬佑志弁護士も、判決が今後の裁判に与える影響を危惧する。
「妻がいくら不快に思っても、相手の枕営業だから不法行為にあたらないという理屈が通るなら、いくらでも不倫を弁解できるようになってしまいます。不倫が発覚しても、今回の判決を引き合いに出して“これは枕営業”と反論する裁判が出てくることも考えられます」
※女性セブン2015年6月18日号