1950~60年代に一世を風靡した『歌声喫茶』が今、再びブーム。最近は“歌声喫茶世代”のシニアだけでなく、若い世代にも人気はじわじわと広がり、古き良き歌声喫茶で異世代交流が生まれている。
歌声喫茶とは、ピアノやアコーディオンなどの生伴奏にあわせて、客がリクエストした歌を店内の客が一緒に合唱する喫茶店のこと。当時、店は連日、学生や青年たちで溢れ、一大ブームを巻き起こした。2000年頃に再び人気が復活。数年前からまた盛り上がり、定年を迎えた歌声喫茶世代の団塊世代を中心に、今またブームとなっている。
歌声喫茶が発祥した新宿で草分けとなる『ともしび』は、今年61年目を迎える。『ともしび』の店長・斉藤隆さんはこう語る。
「1954年~60年頃、歌声喫茶に学生や青年たちが集まって、国民的ブームのようになった時期がありました。その年代の方たちが定年退職して、時間ができてまた歌声喫茶に戻ってきている現象がいちばん大きな流れになっていると思います。歌うことは健康にもいいですし、ひとりで歌うカラオケと違ってみんなで楽しめる、音楽の良さを共有でき、人との繋がりを感じられるところがあります。
キャンプファイヤーで肩を組んで歌うような連帯感が人気です。2011年の震災を機に、歌声喫茶の人との繋がりを大切にするスタンスが注目を集めて取り上げられる機会も増えました」(斉藤さん)
『ともしび』では15年ほど前から、全国各地の喫茶店や公民館、ホテルなどあらゆる場所へ呼ばれる“出前歌声”の依頼も増えており、その数は年間200ステージほどにも。これに触発され、「自分たちでも」と歌い合う集いを主催する団体は全国的に拡大している。
ここ数年、人気は下の若い世代にも広がっている。そのきっかけのひとつが、アカペラ5人グループの『ベイビー・ブー』。彼らが客として出会った『ともしび』と意気投合。『ともしび』でライブを始めてから、彼らのファンの30~40代の客が店に通うようになった。他には、大学の先生と学生、親子、会社の先輩後輩など、さまざまな形で若い層が少しずつ増えている。歌声喫茶が若者にウケた理由は、曲の良さ、親しみやすさ、歌いやすさにあるのではと斉藤さんはいう。
「共感するところはみな同じですよね。ひとりではなく、みんなで歌う楽しさがいいと言われます。若い人たちにとって古い歌は、新鮮なのだと思います。現代の歌は、結構難しくて気軽に歌えないところがありますが、当時の歌は、曲もいいし親しみもあるし、簡単に覚えられて歌いやすい歌が多いんですよね。ここでは歌のうまい下手は、関係ないですし、異世代の交流も楽しいのではないかと思います」(斉藤さん)
週末は全70席がほぼ満席。必然的に隣同士で話して仲良くなる機会は多く、20~70代まで世代を越えた交流を楽しんでいるという。大半はリピーターとなり、いちばん多い人で、週に5日訪れるという人も。それも全国からで、神奈川や千葉、埼玉などから電車に乗って週に何度も通ってくる人もいれば、遠方から飛行機や新幹線に乗ってくる人、海外在住者が帰国時に寄る例もある。