総務省の就業構造基本調査によると、介護者のうち無職の者(専業主婦とか引退した高齢者とか)は266万人、働きながら介護している者は290万人いる。働きながらの介護者のうち、40代と50代が170万人で約6割。さらにその170万人のうちの4割は男性。いわゆる油の乗った管理職年代が、仕事も介護も、その少なからずは子育ても、ダブル、トリプルで担っているわけだ。中には母子家庭で親の介護をしている働くママも含まれるだろう。
家族の介護に割いている時間や労力は人ぞれぞれだし、介護サービスを使わないで自分でする理由も個々別々だとは思う。でも、在宅の介護というのは、おおよそえらく大変だ。大変だから、介護休業制度というのも設けられているのだが、それを利用しているのは要介護の家族を持つ有業者のうちの3%にすぎないそうだ。親が認知症になったので介護で休みをとらせてください、といえる空気の職場は例外的にしか存在しないのだ。
逆に、「介護が大変で……」などと会社で愚痴ったら、「じゃあ、キミは残業がない部署に移りなさい」と閑職に追いやられるケースが多々あると聞く。「キミは介護の責任があるから、この仕事は無理だよ」と決めつけられて、出世の妨害をされる「ケアハラスメント」が横行している、とも。給料が高くて社内ポストの取り合いが激しい年代なので、自分のマイナス要素は隠さないとヤラレル、そんな職場もけっこうあるようなのだ。
で、隠して、無理して、頑張って、もう続けることはできないと「介護離職」に至る者が、毎年10万人はいるともいわれている。そこまで頑張るミドルエイジは責任感がだいたい強いから、彼や彼女が職場から抜けることで社内のマネジメントが停滞するケースも問題になっている。もちろん、会社でバリバリ働くだけが人生ではないので、一概に「介護離職」が悪いとはいえない。が、一度辞めてしまうと、介護が終わったとしても、元の職場や同じレベルの仕事に復帰すること至難だ。離職して、家族の介護に専念したはいいが、予想以上に過酷な日々で、メンタルをやられるケースも少なくない。
高齢者介護を素人がやるということは、それだけハードなのだ。だったら、「在宅へ」ではなく、「もっと多様な介護サービスへ」向かうべきなのではないか。介護のプロの力をもっと利用して、そのぶんのパワーを自分の仕事に割いたほうが効率的だし、現実的なのではなかろうか。
そのためには、介護サービスをもっと充実させないといけない。質をあげる云々以前に、要介護者を受け入れる施設が増えなければいけない。ところが、今年は介護報酬のマイナス改定がはじめて実施されたこともあり、1月から4月までの介護事業所の倒産は30件超で、昨年同期の6割増、過去最悪ペースなのだという。
そういう構造不況業種である介護業界を嫌う若者は増えており、介護福祉士の養成課程数は、2008年から2013年の5年間で2割も減っている。定員充足率は69.4%だ。介護福祉士の有資格者で、実際の職に就いているのは55%程度にすぎないというデータもある。仕事にやりがいを覚えているとしても、とにもかくにも薄給すぎて離職する人が続出しているのである。
であるならば、「インフォーマルケアコスト」ぶんを、介護スタッフの給料に回す仕組みを作れ、と思う。要介護の家族のための「介護離職」が増えたら、雇用は減る。要介護者をプロがケアするほうへコストをまわせば、そのぶんの雇用があらたに増える。実はそれが超高齢化社会という課題に対するもっとも合理的な解決策のような気がするのだが、どうだろう。
超高齢化社会を崩壊させないために、とりいそぎ介護スタッフの給料を上げる。財源は、バリバリ働いて高給を取っている層の増税などで得る。そのあたりが正解ではないか。経済学者の意見を聞きたい。