イスラム教を理解するにはキリスト教、ユダヤ教との差異を知る必要があるだろう。社会学者・橋爪大三郎氏と元外務省主任分析官・佐藤優氏が対談し、「世界3大一神教」の秘密に迫る。
佐藤:橋爪先生はイスラム教における「罪」の概念はどのようなものとお考えですか?
橋爪:イスラム教だけでなく、キリスト教やユダヤ教にも共通して「罪」の概念はあります。定義するなら「神に背くこと」。具体的には、禁止された行為を行う。命じられたことをしない。罪のポイントは、神の命令に背いたかどうか。イスラムでいえば、「シャリーア」(※)があるわけだから、規範に反することも罪だといえます。
【※シャリーア/コーランを基にして、イスラム教徒が守るべき生活規範をまとめたもの。9、10世紀頃に成立】
また死後、イスラム教徒にも最後の審判がある。たくさんの天使が克明に記録した一人一人の言動を証拠書類として提出されて、地上の言動についての責任を追及されて、アッラーに裁かれる。
佐藤:そこでよい行いと悪い行いを天秤にかけて重さを量るわけですね。『岩波イスラーム辞典』ではイスラム教の「罪」をこう定義しています。「規範に反する行為。(中略)イスラームには原罪の観念はなく、一般的に罪とは神の啓示の導き、命令に反することである。中でも啓示を拒否し、火獄という罪を受ける不信仰は重大な罪である」と。
橋爪:そうするとイスラムでは神に背く以前にイスラムの信仰を拒否する自体が大きな罪に当たりますね。
佐藤:異教徒と結婚する場合、ムスリム(男性)が異教徒の女性と結婚することはできますが、ムスリマ(女性)は異教徒とは結婚できない。
橋爪:ただ、本来イスラムには異教徒と共存する配慮や知恵が備わっていました。イスラムが政治的版図を広げれば、当然キリスト教徒やユダヤ教徒のコミュニティも含んでしまいますから、「シャリーア」にはユダヤ教徒やキリスト教徒を保護するという規定があります。
佐藤:イスラムの世界では、イスラム教徒と異教徒では税率が異なる。もちろん異教徒の税率が細かく決まっていて高い。ですから、全ての人がイスラム教徒になったら国家の収入が著しく減少するという現実的な問題もあります。その点でも異教徒を受け入れる仕組みはあるのです。
※SAPIO2015年7月号