ライフ

「人の死」に毎日かかわる人々が吐露する心の内を描く一冊

【書評】『葬送の仕事師たち』井上理津子/新潮社/1512円

【評者】福田ますみ(フリーライター)

 本書は、今まであまり語られることのなかった死の現場、つまり、死者をあの世に送りだす葬送の仕事の実際をルポルタージュしたものである。「終活」という言葉が流行語になったように、家族や自身の最期についてオープンに話せる時代になった。元気なうちに遺言を認め、 自分の好みの墓を生前予約し、自分の葬式を自らプロデュースする。映画『おくりびと』のヒットで「納棺師」という仕事も脚光を浴びた。

 とはいえ、葬送の仕事が今も昔も遺体を相手にするきつい作業であることに変わりはない。ある葬儀社の社員は、自死して相当時間がたった遺体をアパートに引き取りに行ったが、すさまじい腐臭と蛆虫の大群に胃の中が空っぽになるまで吐いてしまったという。それでもこの仕事を続ける人、志す人々の本音を著者は丹念に掬い上げてゆく。

 著者はまた、納棺師の鮮やかな所作に感心し、遺体を、まるで寝息を立てて眠っているとしか思えないほどの状態に蘇らせる復元師やエンバーマー(薬剤を使って遺体に防腐処置を施す人)の神業に驚嘆する。

 圧巻は、火葬場職員の仕事だろう。最新式の火葬炉は、人の手入らずで自動的に遺体を骨にしてくれる。著者自身も私もそう思い込んでいたのだが、驚いたことに実際は、職員が焼け具合を目視して、きれいに焼き上がるよう調節をしているのである。彼らもまたプロの仕事師なのだ。しかし、毎日こうした作業に従事す るのは精神的にしんどいのではないか。そう感じる著者に、ある職員が心の内を吐露する。その言葉は、人の最期に立ち会い続けた者のみが語りうる、深くて重たいものだった。

※女性セブン2015年6月25日

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン