身長187センチの新守護神がなでしこジャパンを窮地から救った。サッカー女子W杯の初戦スイス戦で日本代表はPKでの1点を守り切り、白星発進した。勝利の立役者となったのがGKの山根恵里奈(24)だ。
カナダで大会を取材するサッカージャーナリストの栗原正夫氏が山根の活躍を振り返る。
「W杯も五輪も未経験の山根にとって初の大舞台でしたが、非常に安定感がありました。開始12分に相手のエースにDFの背後を取られたピンチがありましたが、いい飛び出しで防いだのは時間帯を考えると大きかった。相手が攻勢に出た後半にも突破を許したシーンがありましたが、ファウルなしでシュートコースを上手く消した。終了間際の相手シュートがクロスバーの上に外れたのも、山根の高さが相手に威圧感を与えた結果でしょう」
近年、なでしこの正GKの座は福元美穂(31)、海堀あゆみ(28)の両ベテランが鎬を削ってきたが、それぞれ身長が165センチ、170センチと世界のGKと比べると高さで見劣りした。そのライバル争いに割って入る巨人・山根の台頭は、W杯2連覇を目指すなでしこにとって必要不可欠だった。ちなみに男子代表GKの川島永嗣よりも2センチ高い。
山根は身長172センチの中学2年生だった2004年に、日本サッカー協会が実施した「第1回スーパー少女プロジェクト」で資質を見出された。中学で身長が163センチ→182センチと約20センチ伸び、「年に2回上履きを買い換えて、売店のおばちゃんに『こんな子は見たことない』といわれた」という逸話を持つ。高校を卒業した2009年から東京電力マリーゼに所属し、なでしこに初選出。翌年にはチリ戦に先発で初出場を果たした。
順調にキャリアを歩んでいた矢先に東日本大震災が起きた。原発事故の影響で所属チームは活動を自粛することになった。
「『サッカーをやっている場合じゃない』とボランティア活動に励んだ時期がありました。ところがある日、避難所で『あなたのいる場所はここじゃない』と声をかけられ、サッカーをやることが一番の恩返しになると気づいたそうです。震災後のドタバタで、なでしこが優勝した2011年のドイツW杯は1試合も見ていないといっていました」(栗原氏)
スイス戦後、「ダメだった」といくつかのミスを反省していた山根。好セーブを連発してチームを優勝に導けば、ゴール前に聳える「アジアの山」として世界にその名が知れわたるだろう。
※週刊ポスト2015年6月26日号