基礎年金番号、氏名、生年月日、住所など約125万件もの個人情報を流出させた日本年金機構。情報を悪用し、別の人間が受給者になりすまして年金を不正受給する可能性も考えられる。
ところが塩崎恭久・厚労相は6月8日、「なりすまし被害」が出ても「補償を行なう考えはいま持っていない」と発言。
さすがにまずいと思ったのか、厚労省の樽見英樹・年金管理審議官がその翌日、「誰かに年金を取られてしまって『しょうがないですね』と申し上げるつもりは毛頭ない」と火消しに走った。
今回の情報漏洩は、5月8日に日本年金機構の地方組織である九州ブロック本部(福岡市)の職員が不審メールの添付ファイルを開封したことでウイルス感染したことから始まった。さらに機構本部(東京都杉並区)の職員らも同様のメールを開け、大量流出につながった。
しかし、これはただのミスでは済まされない。年金機構の現場には“次なる情報漏洩”を招きかねない大きな問題が横たわっているからだ。
社会保険庁解体と年金機構発足に伴い、正規職員が減り、非正規職員が大幅に拡充された。現在、日本年金機構の全職員2万2630人のうち正規職員は1万880人(定員ベース)。一方、非正規職員は1万1750人と、実に半数以上の職員が非正規雇用である。
その非正規職員には、正職員とほぼ同じ業務を担うが有期雇用の「准職員」と、日給制の「特定業務契約職員」、「アシスタント契約職員」などが含まれる。現場ではアルバイトや派遣社員を抱えるケースもある。
情報漏洩の現場となった九州ブロック本部にも東京本部にも非正規が多数働いている。受給者らの現場窓口となり、やはり個人情報を日常的に扱っている全国312か所の年金事務所では、約半数を非正規が占めている。
非正規は年度単位の1年契約が原則で、更新回数は就業規則により4回を上限とし、勤務期間は最長5年とされている。
その結果、定期的に大量雇い止めと大量採用を繰り返し、昨年度は1800人を雇い止めする一方で、1900人を新規採用した。年金機構の労働組合「全厚生労働組合」によれば、2015年3月末までにトータルで約6700人が雇い止めされたという。
入れ替わりが激しい職場に、非正規職員の間では不満が渦巻いている。都内の年金事務所で働いていた40代女性が話す。
「もちろん正規よりも仕事ができる人もいます。それでも雇用期間は絶対。必然的に経験のある人がいなくなるから現場は混乱しています。
そもそも年金制度は複雑で、法改正、制度の変更など確認する項目も多く、短期間で熟知するのは難しい。窓口で相談を受けても質問に答えられず、そのたびに“確認してまいります”と席を外しているのが現状です」
※週刊ポスト2015年6月26日号