今年4月、中国政府は海外逃亡した腐敗官僚など100人の名前や罪名を記したリストを発表した。習近平政権が主導する「反腐敗活動」の一環だ。今回、国際情報誌・SAPIOでは米国人ジャーナリスト、アルフレッド・ミラー氏の協力の下、国際手配された100人のうちの一人、邱耿敏(きゅうこうびん)氏(契約詐欺、資金隠しの容疑)とのコンタクトに成功した。浙江省台州市で貿易会社を経営していた邱氏は2011年にノルウェー企業S社から契約詐欺で中国公安部に告発され、指名手配リストに加えられた。
邱氏は現在、米国で起こした別の事件で米当局に逮捕・収監されているため、以下は代理人の葉寧弁護士(中国系アメリカ人)がミラー氏に語った邱氏の言い分だ。
──邱耿敏氏が米国で逮捕された経緯を聞かせてください。
「邱氏は2014年7月、米国でのマネーロンダリング容疑で逮捕された。現在も審理中のためニュージャージー州モンマス郡の矯正施設(刑務所)に収監されている」
──中国政府が今年4月に公表した「国際手配リスト」に記載されているが……。
「『お尋ね者100人』のリストには、確かに本物の犯罪者が何人かはいるが、その多くは小さなジャガイモのようなもの。習近平は『虎もハエも一網打尽にする』と息巻いているが、茶番としか言いようがない。
邱氏のほかに私が知るケースでは、ある建設会社の総務部長が2000年頃、50万元の賄賂を受け取ったとして指名手配されている。当時の50万元と言えば約8万ドル。これは腐敗した中国政府や党の幹部連中が一晩に使う食事代か、女と遊ぶナイトライフ程度の金額だ」
──中国政府はなぜ、そのような小物の経済犯に焦点を当てるのか。
「これは13億の中国国民を欺くための安っぽいゲームに過ぎない。政府はこんなにいいことをやっているんだぞ、と言うための方便だ。そもそも、この100人は全て整形手術で顔を変えている。顔ぶれもちっぽけな軽犯罪者か、政治的理由で狙われている者か、10~20年前から指名手配されている者かのどれかだ。言ってみれば、完全な屑。中国国民を欺き、国際社会をバカにしたプロパガンダ以外の何物でもない」
──なぜ邱氏はS社や中国当局から標的にされたのか。
「邱氏は2011年に渡米後、ニュージャージー州イースト・ブランズウィックに妻や娘と定住し、中国民主党の現地支部長を務めた。邱氏は1990年代末、中国で同党の浙江省支部設立に関わっており、母国の民主化に強い決意を抱いている。そのために中国政府から圧倒的かつ恐ろしい扱いを受けており、加えて中国側に立つ米国政府などからも冷遇されているのが実情だ」
※SAPIO2015年7月号