『半沢直樹』のような高視聴率ドラマがある一方で、1桁台の低視聴率ドラマも少なくない昨今。どうしても「低視聴率=面白くない」というイメージが強いが、世間的に知られていないだけで、実は面白い低視聴率ドラマもあるのだ。
たとえば2012年にフジテレビ系で放送された『ゴーイング マイホーム』。平均視聴率は7.9%とかなり寂しいものだった。
脚本・演出を手がけたのは、『そして父になる』でカンヌ国際映画祭審査員賞に輝いた映画監督の是枝裕和氏だ。
「是枝さんが初めて民放連続ドラマにトライするというので、期待して見ました。実際にとても良質なドラマでした。当たり前の日常にこそドラマがある、という是枝さんの思想が見事に反映されていました」(上智大学文学部教授の碓井広義さん)
ドラマを盛り上げるような殺人事件は起こらないし、大恋愛もない、泣かせるような重い病気もないが、「画面から目が離せなかった」(碓井さん)と言う。
碓井さんが印象的だった場面は、山口智子(50才)演じるフードスタイリスト・沙江のCM撮影のシーンだ。
沙江の盛りつけた料理をスタッフが「おいしそう」と感心する。すると、沙江は「おいしそうとおいしいは、別なんだよ」と笑顔で答える。
「このセリフは深いですよね。例えば、視聴者も現実生活の中で見かけた人を『いい人そう』と思う。でも、それは『いい人』とは限らない。つまり、あのセリフは是枝さんの『この世界は見えないところにこそ真実がある』というメッセージだと思うんです。さりげないひと言にも深い意味が込められている。それが是枝作品なんです」(碓井さん)
だが、視聴率は1話目の13%をピークに急降下してしまった。
「起伏のない日常の積み重ねというホームドラマは異色でした。普段と違うものに対する違和感、拒否感があったのかもしれません」(碓井さん)
※女性セブン2015年6月25日号