猛威を振るうMERSによる韓国国内の死者は10人、感染者は122人を数える。医療施設や自宅での隔離対象者は3400人を超えた(6月11日時点)。2012年にMERSコロナウイルスが初めて発見されたサウジアラビアを除けば、死者・感染者ともに最悪の数字だ。
韓国では、自宅隔離の対象となっていた医師とその妻が6月6日にフィリピンに出国してしまい、翌日に帰国したことが報じられた。感染が疑われている人物の出国を韓国政府は阻止できていない。隔離対象者に指定されていないウイルス保有者が日本に入国してしまうことも考えられる。
現在、日本の空港や港湾では韓国に滞在した人に注意を呼びかけるポスターを貼り出し、通行した人の体温を測るサーモグラフィを設置するなどの水際対策が取られている。しかし、それでウイルスの侵入を完全に防ぐのは不可能だ。
感染症に詳しい大和高田市立病院の清益功浩医師によると、「少ない量のウイルスで感染した人の場合、発症後の症状は軽く、潜伏期間も長くなると考えられる」といい、MERSの潜伏期間は最長2週間とされる。その期間中であれば、空港や港湾の体温チェックの網にかかることはない。清益氏はこういう。
「2003年にSARSが流行した時、日本で感染者が出なかったのは奇跡といっていいくらいの幸運だった。ただ、SARSの流行がなかったことで逆に経験・データがない。今回、MERSが入ってきたら大きなパニックを引き起こすことが懸念されます」
清益氏が懸念する最悪シナリオは、ウイルス感染者が発症前に検疫所をすり抜けて日本国内で発症し、その後何らかのかたちで人間以外の動物に感染させるケースだという。
「宿主の動物に感染させた際に、ウイルスが変異してさらに強毒化し、それが再び人間に感染する。可能性が高いとはいえませんが、リスクはあります」(同前)
その最悪サイクルは、すでに韓国で起きている可能性もある。二次、三次感染でも感染力や毒性が落ちていないことがその証拠だと指摘する専門家もいる。狂暴化したウイルスが人によって運ばれてくるリスクも十分考えなければならない。
韓国で起きている混乱は、決して対岸の火事ではない。
※週刊ポスト2015年6月26日号