神戸連続児童殺傷事件の犯人である元少年Aが手記『絶歌』(太田出版)を発売したことで、今問題視されているのが、犯罪者が自らの罪を商業的に利用していることだ。
現在の日本の法律では、多額の印税収入を元少年Aが得ることになる。版元は印税について、こう答えている。
「通常の出版物なので今後、著者である彼に印税は支払う。それをどうするかは本人次第で、当社が口を出すことではない。だが、遺族のかたに経済的にも一生責任を負っていきたいと本人が思っていることは確かだ」
世界に目を向けると、犯罪の商業利用を規制する法律がある。米国では1970年代以降、凶悪犯が自らの事件の内幕を出版したり、映画化の権利を売るなどして多額の利益を得るケースが相次いだ。
有名なのが、ニューヨークで若い女性やカップル計6人を射殺、すべての現場に「サムの息子」という署名を残した猟奇的殺人犯・デビッド・バーコウィッツの独占手記を手にするため、多くの出版社が巨額の報酬を持ちかけた騒動である。
そのため、1977年にニューヨーク州は、犯罪者が自らの事件の暴露から得られる利益は、被害者の救済基金に納めなければならないとする「サムの息子法」を制定した。その後、米国内約40州で同様の法律が作られている。
オーストラリアでも「差し押さえ法」と呼ばれる同様の法律が定められおり、英国では冷戦時代にソ連のスパイだった元英秘密情報部員が出版した自叙伝に対する印税支払いを求める裁判が起こり、裁判所は「犯罪行為から犯罪者が収入を得ることはできない」という判決を出したこともある。
元少年Aの手記出版を機に、日本でも「サムの息子法」制定を議論する声も高まりそうだ。
※女性セブン2015年7月2日号