アジアの主要都市の不動産がここ数年で急騰したのに対して、東京の不動産価格は20年にわたるデフレで低迷していることに加えて、円安で一挙に“お買い得感”が高まっている。それが不動産投資に拍車をかけ、昨年の海外企業による日本の不動産取得額はざっと1兆円、前年の3倍に激増した。その中心は中国系の投資会社だ。
いまや日本国民は“高級マンションに住む中国人”を見上げるしかないという悲しい現実を突きつけられている。慶應義塾大学ビジネススクールの小幡績・准教授が指摘する。
「円安によって日本のサラリーマンの労働の価値もドルベースで4割下がった。少しぐらいの名目賃上げではとてもカバーできないくらい大幅に収入が減ったことに気づくべきです。
そこに中国人が“爆買い”に来るから商品は値上がりし、日本人は買いたいものが買えなくなり、貴重な品や資産が海外に流出していく。日本人がマイホームを持ちたくても、同じ予算だと円安になる前と比べてより遠く、不便な物件しか持てなくなって生活環境が劣化する。それが円安なのです」
円安で国民が貧しくなるとはそういうことだ。小幡氏が続ける。
「いまやデパートや家電量販店では、1階の一番いい場所に外国人向けの免税商品が置かれ、日本人は奥の売り場で買い物しなければならない。それなのに中国人観光客の“爆買い”でモノが売れたと世間は喜んでいる。
しかし、不動産も家電も円安で価格が4割引きになったから買われているだけ。円高時代にも4割下げたら売れたでしょうが、それで消費回復とはいえなかったはず。それと同じことが起きているのに喜ぶのはおかしいのです」
円高時代、日本人は気軽に海外旅行へと出かけたが、いまや旅行費用が高すぎて渡航客が減り、企業の海外出張も、学生の海外留学も減った。代わりに中国人が「日本は安いよ」と訪れ、日本人は宝石も貴金属も売り払って外国人観光客の落とす外貨に群がっている。 アベノ円安でいつのまにか日本は中国人から見下される「経済三流国」になっていたのである。これが安倍晋三首相の目指す「美しい国」の姿なのか。
※週刊ポスト2015年6月26日号