【著者に訊け】群ようこさん/『よれよれ肉体百科』/文藝春秋/1566円
【内容】
〈あれこれ問題が出てくる年齢〉になった女性にとって切実な事柄を笑い飛ばし、返す刀で男性のおかしな生態にピシャリと釘を刺す痛快エッセイ。「皺」に始まり「薄毛」「閉経」「虫歯」「老眼」「尿もれ」「加齢臭」から「下半身」まで、身体の各部のタイトルがついた計56編が収録されている。
群さんの『肉体百科』が出たのが1991(平成3)年。24年後に出た今回の本ではタイトルに「よれよれ」が加わり、身体について加えられる観察と洞察が、より深く、よりユーモラスになっている。
ふつうに飲んでいたお茶に突然、むせるようになるなど、年をとるに従い、身体はままならなくなってくる。外形的な変化も大きく、自分の両膝が「小沢一郎」に似ていることに気づいて驚いたりもする。
「短いスカートをはく人なら日ごろから気にして見たりもするでしょうけどね。私は全然気にしてなかったら、ある日、『あれ?』と思ってもう、びっくりです」
もしや自分の膝も誰かに似てはしないかと覗き込んでしまう。この本を読んだあとでは、見慣れてなじんだ自分の身体にもさまざまな発見がある。取り上げられている肉体の部位は56か所。毎月、連載の締切がくると、「次はどこを取り上げようかな」と考えていったそうだ。
世の流れはアンチエイジングなのに、群さんは敢然とアンチ・アンチエイジングを推奨する。
「年をとるってことは人類共通、どんな生きものも避けて通れないですよね。それなのに急に『美魔女』とか言い始めて、『ゴルゴ線』(目の下のくま)だとか『マリオネットライン』(口角から顎に走る皺)だとか、ただの皺にも名前をつけて。そうなるとやっぱり気にする人がいるじゃないですか。それを消すのがまた商売になる。その商売根性が気に入らないんですね」
少し前に、50才以上の女性を読者層にしたある雑誌で、ひと月に使う美容代が「平均13万円」だという数字を見て仰天したことがあったそうだ。
「何かの間違いじゃないかと思って、一、十、百って何度も数えたぐらいです。回答者には会社を経営してる人や人前に出る仕事の人もいたのでそういう数字になったのかもしれないけど驚愕しました。私? 毎月数千円です。面倒くさがりやなので、面倒なのはいいやってすぐ思ってしまう。自然に抗おうって人は、ものすごく意思が強いんでしょうね」
年をとれば若いころと同じ顔ではいられない。疲れたときは皺も深くなる。「潔くあきらめなさい」と群さんはささやきかける。
本の中に描かれているのは割と狭い範囲のことだ。群さん自身の身体と家の中のこと、あとはせいぜい、買い物に出かける行き帰りのご近所ぐらいである。それなのに、面白い人物や事柄と出会う確率が異常なほど高い。
「昔からそうなんです。わざわざ探さなくても、なぜか向こうから来てくれるみたいで。亡くなられたエッセイストの山本夏彦さんに、『いろんなことに遭遇するのも、物書きの運のひとつなんだよ』って言われたことがあって、ありがたいと思っています」
入れ歯を口から出し入れして漫画の『進撃の巨人』みたいな顔になっているおじさんや、コントロールカラーの塗りすぎで顔が白緑色になっているおばさん。前著『肉体百科』にも「ゆるふんおじさん」が出てきたが、『よれよれ肉体百科』でも別人だが同じ状態の人に出会えているのにはびっくりする。
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2015年7月2日号