映画『愛を積むひと』(6月20日公開)で、役者としての新境地を開いたと話題になっている佐藤浩市(54才)。本年は本作に続き、『HERO』(7月18日公開)、主演作『起終点駅 ターミナル』(11月7日公開)など来春までに5本の出演作の公開が予定されている。
佐藤は、仕事一筋で生きてきた、実直で不器用な主人公・小林篤史を白髪姿で熱演。佐藤の妻を樋口可南子が、娘を北川景子が演じている。監督・脚本は朝原雄三氏が務めている。佐藤に本作について聞いた。
――不器用な夫が、劇中で妻に先立たれ途方に暮れてしまいます。演じてみて、夫婦観は変わりましたか?
「隣にいる人の重さというのか、伴侶という言葉の意味合いって、時間とともに変わっていくものだと思いましたね。自分のことを振り返ってみれば、伴侶という言葉の重みを20代、30代では、本当のところはわかっていなかったと思います。40代、50代でようやく少し感じられるようになるんじゃないですかね」
と、身を乗り出して語ったあと、
「人は誰も、年とともにときめきがなくなっていくじゃないですか。若い時の恋愛とは本質的に違っていくし、ときめきという言葉にも躍動的な響きはなくなってくる。それは当然だと思うんです」
――はい(と、大きくうなずく)。
「ぼくが思うに所詮、伴侶というのは他人ですよ。でも、ときめきをもたらしてくれたのも、その他人以外の何ものでもない。だから、その伴侶が消えたときの喪失感は、言葉で言い表せないものだと思うんです」
――そうですね。想像するのも怖い。
「生きるということは、人とかかわるということなんですよね。自分ひとりでは何もなしえないじゃないですか。でも、この主人公はそのあたりがよくわかっていない。それが彼の狭さ、小ささだと思うんです。
だから、過ちを犯した人のことも許そうとしない。ということは自分自身も許せない。狭い世界で生きているんです。でも、失って初めてわかるものもあるんですね。それが生きることの不可思議さ、面白さかもしれないんだけど」
――この映画の中では、妻の残した手紙を見るたび、夫は何か気づいていくというか変わっていきますよね。
「それはまた、男がどう生きるかということでもあるのかもしれません。女の人は年を重ねるにつれて、妻になり、母になっていくけど、じゃあ男は父となるのかというと、どうもそれは別のような気がします」
と言葉を切る。そのまましばし待っていると、
「男は…というか、この主人公は再生した時、自分の心の狭さを知り、父親である自覚を持ち、さらに妻への愛を再確認する。そして、人とかかわること、人を許すこと、人を信頼することの大切さを知るわけです。だから彼のような男には、人生の転機が必要なんでしょうね」
※女性セブン2015年7月2日号